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ID番号 03018
事件名 債務弁済否認請求控訴事件
いわゆる事件名 大分県立別府鶴見丘高校教諭事件
争点
事案概要  自己破産の申立をした高校教諭の退職手当につき、県知事が公立学校共済組合にその四分の三を支払ったことに対して、右教諭の破産管財人が否認権を行使し、右退職手当の四分の三相当額の支払を求めた事例。
参照法条 労働基準法3章
民事執行法152条2項
破産法72条2号
地方公務員等共済組合法115条2項
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 破産と退職金
裁判年月日 1987年2月25日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ネ) 325 
裁判結果 取消・認容
出典 タイムズ641号210頁/金融商事767号26頁
審級関係 一審/大分地/   .  ./昭和60年(ワ)176号
評釈論文 佐村浩之・昭和62年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊677〕308~309頁1988年12月/山本克己・新倒産判例百選〔別冊ジュリスト106〕74~75頁1990年2月
判決理由 〔賃金-退職金-破産と退職金〕
 破産手続において、差押禁止財産は破産法六条三項により原則として破産財団に属さないとされているところ、民事執行法一五二条二項によれば、退職手当金債権については、その給付の四分の三に相当する部分は差押が禁止(なお、差押禁止債権の範囲の変更については民事執行法一五三条に規定がある。)されていることは被控訴人の主張するとおりである。
 しかしながら、破産手続において、右退職手当金債権の四分の三に相当する部分について差押が禁止されるところから、この部分が破産財団に属さないとされるのは、破産宣告時において、退職者である破産者の退職手当金が退職者に給付されることなく、そのまま債権(退職手当金債権)として存在していることが前提となるのであつて、破産宣告前において、退職手当金の全部又は前記の四分の三に相当する部分が退職手当金の請求権者である退職者(破産宣告後の破産者)に支払われてしまえば、その支払を受けた退職手当金は、特段の事情のないかぎり、混合により退職者の一般財産に帰属することになつて、民事執行法一五二条二項の適用はなくなり、その後に破産宣告を受ければ破産財団となるべき財産であつて、自由財産となるべきものではない。したがつて、退職者が支払を受けた右退職手当金を特定の債権者に対する債務の弁済に供した後破産宣告を受ければ、右弁済が破産法七二条二号所定の否認の要件を充足するかぎり否認権の対象になることはいうまでもない。
 (中略)
 被控訴人は、地共法一一五条二項は、組合の組合員に対する債権回収確保のために定められた相殺類似の特別規定であり、これに基づく弁済は破産法七二条二号により否認権の対象にならない旨主張する。地方公務員法、地共法の各規定によると、確かに、被控訴人は、地方公務員法四三条に基づき、地共法三条一項二号によつて設立された法人(共済組合)であり、その組合員の資格は「公立学校の職員並びに都道府県教育委員会及びその所管に属する教育機関(公立学校を除く。)の職員」に限られ、組合員が給与の支給を受ける地方公共団体と組合員の共済を担当する共済組合とは密接な関係にあり、さらに組合の組合員に対する貸付事業の資金は、社会保険である長期給付にかかる責任準備金を運用するもので、将来の年金給付に充当されるべきものであるから、貸付金回収手段の確保は組合員の福祉増進のための一環である貸付事業の促進拡充のため絶対必要であるところから、地共法一一五条二項の規定を設け、組合員の給料その他給与(退職手当も含む。)から確実に弁済を受けられるようはかつていることは被控訴人主張のとおりである。
 しかし、組合員たるAが右給料その他の給与の支給を受ける地方公共団体たる大分県と組合員の共済を担当する共済組合たる被控訴人とは全く人格を異にするものであるから、Aに対し債権はあつても債務のない被控訴人がAに対して相殺するということはあり得ないばかりでなく、地共法一一五条二項は、組合員が破産宣告を受けた場合に、破産者の財産を破産債権者らに公平に分配することを目的とする破産手続において、別除権を有しない組合たる被控訴人のみが他の一般の破産債権者らに優先して組合員Aの給料その他の給与(退職手当金も含む。)から排他的独占的に弁済を受けたのと同様の結果を認める相殺類似の特別規定にあたるものとは到底解し難い。