全 情 報

ID番号 03024
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名
争点
事案概要  賃金の額について採用面接時において残業を含めて月額手取り二二万円から二三万円という決め方をした場合、労基法一五条の要請からみると不十分なところがあるが、直ちに違法とはいえず、会社が日額九〇〇〇円としたのに対し労働者が日額九六〇〇円を固執して譲らない場合、雇用関係を継続することができないやむを得ない理由があり、解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法15条
民法1条3項
体系項目 労働契約(民事) / 労働条件明示
解雇(民事) / 解雇事由 / 人格的信頼関係
裁判年月日 1987年2月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 8362 
裁判結果 棄却
出典 労働判例495号52頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働条件明示〕
〔解雇-解雇事由-人格的信頼関係〕
 三 以上の事実によると、被告会社は、昭和六一年六月二日に原告に対して解雇の意思表示をしたものと認めることができる。そして、右認定事実によると、解雇の理由は、賃金の額について採用面接時において残業をも含めて月額手取り二二万円から二三万円程度という大まかな額が定められ、その後被告会社において原告の働きぶり等を勘案して日額金九〇〇〇円と決定したところ、原告は当初から日額金九六〇〇円とする旨の合意があったと主張してその支払に固執し、両者の折合いがつかなかったことから、雇用関係を継続していくことが不可能となったということにあったものと認めることができる(なお、前記のように退職証明書には「会社側の一方的に依る雇用契約の破棄」との記載があるが、前掲各証拠によると、これは原告がこのような記載をすることを強く要求したため、やむを得ず記載されたものと認めることができるから、この記載をもって解雇の理由を上記のように認めることの妨げとすることはできない。)。
ところで、労働契約の締結に際しては、使用者は、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないとされており(労働基準法一五条一項)、前記のような残業をも含め月額二二万円から二三万円程度という定め方は、法律の要請からみると不十分なところがあるけれども、賃金額を定めるについて大きな影響のある原告の技能程度は採用決定時には原告自身の申告によるほかは被告会社には未知のものであったし、半月後の賃金支払期には賃金の額も具体的に明示されることが予定されていたのであるから、右のような定め方をもって直ちに違法のものであると断定することはできない。そして、原告が日額九六〇〇円との明確な約束がなかったのにもかかわらず、その支払に固執して譲らず、被告会社の説明に耳を貸さないという態度を変えない以上、雇用関係を継続することができないやむを得ない理由があるものということができ、被告会社のした解雇は正当であって、これが解雇権を濫用したものであるとすることはできない。