全 情 報

ID番号 03044
事件名 労働契約存在確認請求事件
いわゆる事件名 東神倉庫事件
争点
事案概要  取締役経理部長の職にあった者が不正行為を理由に再任されなかったことにつき、従業員たる地位も併せもっていたとして、その地位保全と退職慰労金に未払部分があるとしてその支払いを求めていた事例。
参照法条 労働基準法3章
労働基準法2章
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職慰労金
退職 / 合意解約
裁判年月日 1987年4月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (ワ) 11766 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例496号56頁/労経速報1297号14頁
審級関係
評釈論文 大内伸哉・ジュリスト941号129~131頁1989年9月15日
判決理由 〔退職-合意解約〕
 被告では従業員から取締役に就任し職制上部長職にあるものについては、その報酬につき使用人分と役員分とに区分して表示していることが認められ、原告の職務が取締役就任の前後を通じて同じく経理部長としての職務であって何ら変りはないことは当事者間に争いがない。そこでまず右報酬に区分がある点についてみるに、役員の中で職制上部長、課長等といった使用人としての職務を行う者については、現に使用人と同様の職務を行っていることから、税法上は純然たる使用人に対する給与と同様に会計処理上損金として算入することを認めているにすぎないのであって、かような処理は税法上のものであって役員報酬中に使用人分があることが実体法上の雇用関係を当然に予定しているものとはいえない。したがって右の如き区分の存在をもって前記認定を覆えすものとはいえない。次に、職務内容が同一であることについてみるに、原告は取締役就任前後を通じて、職制上部長職にあり、担当は経理であってその間に変化はなく職務内容、職制上の指揮命令関係に相違はないものといえるが、しかし他方前認定の如く原告は人事考課、勤怠管理を基本的に受けない地位にあることからすれば、原告が、雇用契約に認められるような使用従属関係にあったものとは認め難く、右事実をもって前記認定を覆すに足りない。なお、被告が過去において取締役就任後一年くらい経過した後に退職金を支払った事例があったとしても、右事実をもって直ちに退職金の支払が単に形式的なものであるということはできず、前記認定を覆すに足りない。
 以上のとおりであるから、原、被告間の昭和四〇年一二月一三日付雇用契約は昭和五三年五月二六日をもって合意解約されたものと認められる。
〔賃金-退職金-退職慰労金〕
 被告の退職慰労金の右支給基準によれば、退職慰労金は在職年数によって慰労金が算出される慰労金部分と功労によって付加支給される部分があることからすれば、このような退職慰労金は業務執行に対する対価として後払的性質を有するものといえるので、原告は被告に対し右支給基準に基づく退職慰労金請求権を有するものと解される。
 そこで、右支給基準に基づいて退職慰労金を算定するに、その基礎となる月額報酬につき原告は月額報酬は六〇万円である旨主張し、被告は五二万円である旨主張するのでこの点についてまず検討する。右認定のとおり、昭和五九年六月当時支給していた月額六〇万円は、賞与を先取りし、従前の月額報酬五二万円を増額したものであるところ、月額報酬の増額を、賞与分を月額報酬分に含ませて支給する方法によって行うものであっても、各月において支給される額をもって月額報酬というべきであり、原告の昭和五九年六月当時の月額報酬は六〇万円と認められる。したがって原告の受くべき退職慰労金額は月額報酬六〇万円にその在任年数に応じた支給率6と1/12(この数値を支給率とすることについて当事者間に争いがない。)を乗じた三六五万円に加算金一二〇万円を加算するとその額は四八五万円となる。しかるに、被告は右のうち四三六万円しか支給しないのであるから、その差額四九万円が未払となる。
 ところで、被告は、右退職慰労金の額をいくらにするかについて取締役会は裁量権を有し、しかも被告が支給した額との右差額程度はその裁量の範囲内である旨主張するが、右認定のとおり、被告は原告を円満退任の際の退職慰労金を支払う意思であったところ、月額報酬の額を右のとおり五二万円とした結果にすぎないこと、支給基準自体からすれば、付加支給分についてはその裁量の範囲が比較的広いとしても慰労金部分についてはその余地が少ないこと、このことに退職慰労金の対価的性質を考慮すると、右四九万円を減額することが裁量の範囲内にあるものということはできない。