全 情 報

ID番号 03045
事件名 雇用関係存続確認等控訴請求事件/同附帯控訴事件
いわゆる事件名 杤木合同輸送事件
争点
事案概要  使用者とユニオン・ショップ協定を締結している組合を脱退して他の業種別組合に加入した労働者が右ユニオン・ショップに基づき出向先会社および出向元会社から解雇された事例で、右両会社に対して雇用関係の存続確認を求めた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 出向中の労働関係
裁判年月日 1987年4月27日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (ネ) 596 
昭和57年 (ネ) 281 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集38巻2号107頁/時報1234号147頁/労働判例498号36頁/労経速報1302号13頁
審級関係 一審/00341/名古屋地/昭56.12.25/昭和53年(ワ)2002号
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向中の労働関係〕
 出向の中に実際上種々の形態のものがあることは被控訴人Yも認めるところであつて、人員整理の目的でなされる出向も巷間さまで珍らしいことではない。従つて、同被控訴人の出向がA会社において艀部門を廃止した機会になされたものであること、明示的にも黙示的にも期間の定めのなかったことなどはいずれも右人事異動を在籍出向と解することを妨げるものではない。異動に際して退職金のことが話題になったことも格別結論を左右する程のものでないことは前記のとおりである。また、出向の場合、労働者は出向先の企業に対しその指揮命令のもとで労務提供を行うので、出向先の勤務管理や服務規律に服することとなるのは当然であるし、他方、出向先もこれに伴つて安全配慮義務、労働基準法や労働安全衛生法などの労働保護法の定める使用者ないし事業者としての責任などの一部を通常分担することになろう。このほか、例えば退職金の例一つをとっても、本件において、A会社と控訴人の両社の勤務期間が通算され、両社で分担される扱いになつていたとみるべきこと前認定のとおりである。これら、出向の場合に通常みられる出向元企業と出向先企業の密接な関係、役割分担等の関係を背景に考えると、被控訴人Yに対する港湾労働法一三条所定の届出を控訴人が行つていること、控訴人が解雇予告手当等を供託していることなど被控訴人Y指摘の諸事実も、未だ必ずしも右の判断を左右するだけの決定的な力を有さず、これらの諸点を十分考慮してもなお、被控訴人YはA会社との間に労働契約関係を在続させながら、控訴会社に出向していた者と解するのが相当である。
 (中略)
 なかには出向先企業と出向労働者との間に、単に日常の労務指揮の服従関係(これが通常の出向労働者と出向先との関係である。)以上の関係たる雇用契約関係の在することが、出向元、出向先、労働者の三者の実態関係に即して認められる場合もありうるかもしれない(例えば、出向の例ではないが、神戸地裁昭和四七年八月一日判決・労働判例一六一号三〇頁の事案は、単に労働者の供給のみを目的として独自の企業活動を行わない下請業者に雇われたうえ、その親会社に派遣された労働者と右親会社との間に黙示の雇用契約関係が認められた例である。)が、これを一般の場合に常にそうだとすることは、出向労働者にとつて出向元・出向先間の通常複雑な権利義務の分担関係にかんがみ、自己の権利義務がかえつて不明確になるおそれもあるし、多くの場合出向の実態とも添わないこととなろう。
 むしろ通常の場合は、出向労働者と出向先との関係は、出向元との間に存する労働契約上の権利義務が部分的に出向先に移転し、労働基準法などの部分的適用がある法律関係(出向労働関係)が存するにとどまり、これを超えて右両者間に包括的な労働契約関係を認めるまでには至らないものというべく、本件も、前認定の事実その他本件証拠に現れた控訴人と被控訴人Yの関係のみでは、未だその例外ではないと解せられるのである。