全 情 報

ID番号 03062
事件名 地位保全請求事件/賃金仮払仮処分申請事件
いわゆる事件名 八幡タクシー事件
争点
事案概要  タクシー会社で従業員組合の定期大会を企画・開催した際、従業員の約半数を四時間にわたり業務を放棄させるなどして職場秩序を乱したとしてなされた組合役員に対する懲戒解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
裁判年月日 1987年6月25日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 決定
事件番号 昭和61年 (ヨ) 441 
裁判結果 認容
出典 時報1254号125頁/労働判例502号76頁/労経速報1312号19頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
 右事実、前記争いのない事実及び前認定の事実によれば、債権者らは本件行為により、債務者会社の従業員の約半数の約四時間にわたる集団業務放棄、営業車両の約六割の放置という事態を招来したもので、これが債務者会社の職場秩序を大きく損なわしめたことは明らかであって、債権者らの責任は決して軽いものということはできない。
 しかしながら懲戒解雇は懲戒処分のうちでも被処分者の従業員たる地位を失わしめるという最も重大な結果を招くものであるから、その選択にあたっては他の処分に比較して特に慎重な配慮を必要とするというべきである。そこで勘案するに、組合執行部が本件大会の期日を変更しなかったことには、変更した場合会場費が大幅に高くつき、債務者から提案のあった会場費の共済会費からの支出についても容易に同意できない事情があり、地元選出の多賀谷衆議院議員ら来賓の出席を確保する必要があるなど相応の理由が存在し、あえて債務者に損害を与えたり、職場の秩序を乱そうとする意図があったとまでは認められないこと、従前組合が予定した期日に、それが土曜日であっても、債務者が異を唱えたことはなく、本件大会が土曜日に開催されたことにより債務者の受けた損害は結局は数万円にとどまるから、債務者があくまで一〇月一一日の大会開催に対する同意を拒否し、本件業務命令まで出したのは、いささか硬直した対応であると評価せざるを得ないこと、債権者らが組合執行部内において、実質的に主導的役割を果たしたと認めるに足る疎明はなく、かえって、定期大会の召集は執行委員長の権限事項であり、債権者らは副執行委員長又は執行委員にすぎなかったこと、債権者らに過去懲戒処分歴のないことなど本件大会強行に至る経緯、債権者らの動機、債務者の受けた損害、債権者らが果たした役割、債権者らの懲戒処分歴など諸般の事情を総合勘案すると、債権者らの本件行為は債権者らを最終的に債務者会社から排除することを相当とするほどのものとは認め難く、社会通念に照らして合理性を欠いた苛酷な処分であり、使用者の裁量の範囲を超えたものと認めるのが相当である。したがって、本件各処分は、債務者による懲戒解雇権の濫用に当たり、その余について判断するまでもなく、無効であるといわざるを得ない。