全 情 報

ID番号 03081
事件名 賃金仮払処分申請事件
いわゆる事件名 持田製薬事件
争点
事案概要  製薬会社のマーケティング部長として地位を特定した雇用契約により採用された者に対し、勤務状況、勤務態度が右雇用契約を維持するに足りないとしてなされた解雇につき、これが有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 教員の職務範囲
解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
裁判年月日 1987年8月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和62年 (ヨ) 2249 
裁判結果 却下(抗告)
出典 時報1251号133頁/労働判例503号32頁/労経速報1303号3頁
審級関係 控訴審/03927/東京高/昭63. 2.22/昭和62年(ラ)587号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-教員の職務範囲〕
〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 1 債務者は、債権者をマーケティング部の幹部管理職として採用する旨明示して、債権者との間に雇用契約を締結したものであるところ、債権者の勤務態度、状況は、右雇用契約を維持するに足るものではなかった旨を主張する。
 前記一の2認定の、債権者が採用された経緯によると、債権者は、マーケティング部部長という職務上の地位を特定し、その地位に相応した能力を発揮することを期待されて、債務者と雇用契約を締結したこと明らかであるが、債権者が、人材の斡旋を業とする株式会社リクルートの紹介によって採用されていること、及びその待遇に鑑みると、それは、単に、期待に止まるものではなく、契約の内容となっていたと解せられ、この見地から、前記一の3及び4の債権者の勤務態度を検討すると、債権者は、営業部門に実施させるためのマーケティング・プランを策定すること、そのなかでも、特に薬粧品の販売方法等に具体的な提言をすることを、期待されていたにも係わらず、執務開始後七ヶ月になっても、そのような提言を全く行っていないし、そのための努力をした形跡もないのは、マーケティング部を設立した債務者の期待に著しく反し、雇用契約の趣旨に従った履行をしていないといえるし、サラリーマン新党からの立候補を考えたことについても、当選すれば、職業政治家に転身することになるのであるから、債務者にとっては、債権者が、途中で職務を放擲することにほかならないのであり、その影響するところは、一社員が市民として、政治に関心をもって、行動したという範疇に止まっていないこと明らかで、これによって、債務者が、債権者の職務遂行の意思について、疑念を抱いたとしても、債権者は、甘受すべきである。
 2 債務者の就業規則第五五条(解雇)が、「社員は次の各号の1に該当しなければ解雇されることはない。」と明記し、解雇理由を「【1】私傷病による精神または身体の故障、障害のため業務に耐えられず、かつ回復の見込みがないと認められるとき。【2】懲戒によるとき。【3】休職期間が満了し復職を命ぜられないとき。【4】組合から除名され除名の理由が会社として妥当と認められたときならびに会社の解雇要件に該当すると認められたとき。【5】その他前各号に準ずる程度の事由があるとき。」と規定していることからすると、債務者は、右の就業規則を制定することによって、自ら解雇権の行使を、就業規則所定の理由がある場合に限定したものと解せられる。しこうして、第五号には、第一号から第四号に準ずる程度の事由の存在を必要とするのであるが、第一号は、「雇用を継続させることができない止むを得ない業務上の事情がある場合」を例示したと考えられるところ、債権者の先に述べた執務態度は、期待したマーケティング部の責任者として、雇用の継続を債務者に強いることができない「業務上の事情がある場合」に該当すると解するのが相当であるから、債権者には、就業規則第五五条第五号による解雇事由が存したというべきである。
 (なお、念のために付言すると、債権者は、マーケティング部の責任者に就任することで、雇用されたのであるから、解雇するに際し、債務者は、下位の職位に配置換えすれば、雇用の継続が可能であるかどうかまでも、検討しなければならないものではない。)