全 情 報

ID番号 03099
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 あけぼのタクシー事件
争点
事案概要  交通事故を理由に懲戒処分を受けたにもかかわらず、抗議活動、社長批判の宣伝活動をする等、改悛の見込みがないとしてなされた組合委員長らに対する懲戒休職処分の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
裁判年月日 1987年10月13日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和57年 (ワ) 2899 
裁判結果 認容
出典 時報1272号139頁/タイムズ675号157頁/労働判例505号20頁
審級関係
評釈論文 坂本重雄・判例評論360〔判例時報1294〕207~211頁1989年2月1日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕
 被告は、原告らがそれぞれ出勤停止一週間の懲戒処分を受けながら、反省の色が無かったとして、就業規則七三条「従業員が次の各号の一に該当する場合は懲戒解雇する。但し情状によって減俸、格下げ若しくは懲戒休職とすることがある。」の五号「一回以上懲戒処分を受けたにもかかわらず尚改しゅんの見込みがない時」を適用し、原告らに対し、各休職一か月の懲戒処分をなした旨主張するが、被告が、右各処分の根拠としている右就業規則七三条五号は、以下に述べるとおり無効な規定と解されるから、右各処分はいずれも無効というべきである。
 すなわち、同号の文言によれば「改しゅんの見込みがない」ことが懲戒事由とされており、これは、懲戒処分を受けた労働者のその後の態度等が独立に他の懲戒事由に該当しない場合においても、なお懲戒事由となるという趣旨によるものと解される(現に、被告は原告らに対し、同号のみを適用して右各処分をした旨主張している。)ので、実質的には既に処分がなされた前の懲戒事由につき再度処分をすることを許容するものというほかないところ、一般に、使用者の懲戒権行使についても一事不再理の原則は適用され、一旦処分をした同一事実について再度懲戒処分に付することは許されないと解されるから、このような懲戒事由の定めは無効といわざるを得ず、これを根拠に懲戒処分をすることは許されないと解すべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 本件宣伝活動は、文言上特に虚構の事実を含むものではなく、かつ、被告にもその責任の一端があるというべきところ、被告は、原告らに対し休職一か月の各懲戒処分をなした後、その期間が経過するや直ちに、本件の休職二か月または三か月の各懲戒処分をなしたものであり、しかも、先行する休職一か月の各懲戒処分は、前示のとおり、無効のものといわざるを得ないことも併せ考えると、前記(1)でみた原告らの行為の違法性、有責性を考慮に入れても、なお、被告が原告らに対し本件の休職二か月または三か月の各懲戒処分をなしたのは、社会通念に照らして合理性を欠くといわざるを得ず、右各懲戒処分は、懲戒権者たる被告の裁量の範囲を超えてなされた無効のものと判断される。