全 情 報

ID番号 03121
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 相互タクシー事件
争点
事案概要  勤務時間外の酒酔い運転等により罰金五万円の略式命令をうけたタクシー運転手に対する懲戒解雇につき、懲戒権の濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 民法1条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行
裁判年月日 1984年6月20日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ネ) 1087 
裁判結果 変更
出典 東高民時報35巻6・7合併号116頁
審級関係 上告審/03768/最高一小/昭61. 9.11/昭和59年(オ)964号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務外非行〕
 (五)以上(一)ないし(四)で認定したところにより判断するに、右(一)の認定事実からすると本件事故当時、控訴人は単に酒気を帯びていたにとどまらず、そのアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態であった疑いが濃厚であるといわなければならず、したがって、本件事故自体決して軽いものではないというべく、特に業務外での自家用車の運転中とはいえ、旅客運送のための運転を職務とする従業員がこのような行為を行ったということは、タクシー営業を目的とする被控訴人の社会的評価に少なからぬ影響を与え、また他の運転手はじめ従業員に動揺を与えてその企業秩序維持の上でも支障を及ぼしたものといわなければならない。しかし、(1)本件事故では控訴人が自傷したほかは、その損害は比較的軽微であって、いずれも控訴人において賠償を終えており、事故についての報道もなかったことから、本件事故による被控訴人の社会的評価の現実的毀損はそれほど大きくはなかったと考えられること、(2)控訴人は過去に同種の前科、前歴はなく、被控訴人により懲戒されたこともないこと、(3)他の従業員も本件解雇は重すぎるとの反応を示していること、(4)労働基準監督署長も本件につき解雇予告除外認定をしなかったこと、(5)被控訴人も従業員に対し、その対象たる非行の性質は異なるにせよ、これまで比較的寛大に懲戒権を行使してきたこと、(6)同業他社においては本件よりも情が重いとみられる事例でも懲戒解雇にはなっていないこと、(7)自動車運転を職務内容とするか否かという点で重大な差異があるものの、全体の奉仕者として職場規律が重視され、社会的にも厳しく評価されている県庁職員、公立学校教職員の飲酒運転事例においても、相当に悪質な一例を除き、すべて停職以下の処分にとどまっていることなど、これまでに認定した諸般の事情を勘案すると、懲戒権行使にあたり被控訴人に認められるべき裁量の幅を考慮しても、本件事故が被控訴人の社会的評価に及ぼした悪影響、その企業秩序に与えた支障の程度は、客観的にみて懲戒解雇を相当とするほどまでに重大であるとは認められない。したがって、本件解雇は懲戒権を濫用したものであって、無効であるといわざるをえない。