全 情 報

ID番号 03147
事件名 地位保全請求事件/金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 大阪相互タクシー事件
争点
事案概要  タクシー運転手が、会社の経営方針に反対しない旨の誓約書の提出を拒否したことを理由として下車勤務、代務運転手への降等等の懲戒処分をされたことにつきその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
民法90条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働義務の内容
裁判年月日 1983年2月10日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和57年 (ヨ) 2931 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例403号38頁
審級関係
評釈論文 岩出誠・ジュリスト834号94頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働義務の内容〕
 会社は、その形式的根拠として、個々の従業員は、労働契約の附随的義務として、会社に対して忠実義務を負担すると主張し、右忠実義務の内容には、このような義務も含まれる旨主張する。
 忠実義務をどのように理解すべきかは、議論の存するところであるが、結論的に言えば、少なくとも、会社の或る経営方針に賛成の意見を持つべき義務、これに反対しない義務、又は、これらのことを意に反して表明すべき義務などというものは肯定することができないというべきである。
 これを申請人ら主張のように、ファッショ的と評すべきかはともかく、忠実義務を認めるにしても、その内容は、民法第九〇条の定める公序良俗を基準に解釈されるべきであるところ、憲法の保障する思想・信条の自由、表現の自由の規定の趣旨は、公序良俗の内容をなしていると考えられ、私人間においても、精神的自由は、特に実質的な支障のない限りなるべく広範囲に保障されるべきだからである。
 忠実義務が、会社主張のような内容をも有するとすれば、このように理解されるところの公序良俗に反し、ひいては、憲法の右保障の精神にも悖るものと言わざるを得ない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 そうすると、会社の前記業務命令は、労働契約上、申請人らが負担することのない義務を前提に、その履行を目的に発出されたものとして、その前提を欠き、効力を生じないから、かかる業務命令違反を懲戒事由とすることも、又できないと言うほかない。