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ID番号 03166
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 陸上自衛隊朝霞駐屯隊事件
争点
事案概要  自衛隊員が自衛隊員を装った過激派活動家によって駐とん地内で刺殺された事故につき遺族が国を相手どって損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1982年12月23日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ネ) 1265 
裁判結果 一部変更(上告)
出典 時報1070号29頁/訟務月報29巻6号1080頁
審級関係 上告審/最高三小/昭61.12. 9/昭和58年(オ)404号
評釈論文 船越隆司・判例評論295号23頁/梅村裕司・昭和57年行政関係判例解説97頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 駐とん地司令及び警衛司令は、当該駐とん地内の自衛隊員(動哨勤務中の者を含む。)の生命、身体を危険から保護すべき国の安全配慮義務の履行補助者であると解されるところ、右事実によれば、本件駐とん地司令は、過激派活動家の活動状況、とくに自衛隊駐とん地への度々の侵入、自衛隊の制服、階級章等が入手容易であったこと、本件駐とん地において徒歩の幹部自衛官及びその随従者は制服を着ている限りは身分証明書の呈示を要しなかったこと等の事実から、過激派活動家の本件駐とん地に対する幹部自衛官の制服着用による不法侵入を予想し(被控訴人指定代理人は、かかる侵入方法を予想するのは不可能であった旨主張するが、前記事実関係からすれば、当時右予想をするのは可能であったのであり、戦術の専門家である駐とん地司令としては予想すべきであったものと認める。)数百名の多きに達する幹部自衛官を擁していた本件駐とん地の状況に鑑み、営門の警衛勤務者に対して、直属の上司等面識のある幹部自衛官以外の者については、幹部自衛官の階級章を付け制服、制帽を着用して外観上幹部自衛官と見える者に対しても、営門を出入りする際、原則として身分証明書の提示を求めて身分の確認を徹底させるようにし、また、陸上自衛隊服務細則一三四条一項七号及び九号による営門出入者の所持する私物品、出入車両及び搬出入物品の点検に関し、朝霞駐とん地警衛勤務規則に具体的な警衛勤務要領を定めまたはこれについて適切な指示、命令をし、もって、自衛隊幹部でない者が自衛隊幹部の制服を着用し幹部をよそおって営門から不法侵入することがないように営門の出入を管理すべき注意義務があったにも拘らず、これを怠つたものであり、もし右注意義務を尽しておれば新井らの前記のような方法による侵入を防止しえたものと認められる。
 また、およそ駐とん地警衛勤務者は、前記警衛に関する陸上自衛隊服務規則六二条三項等の規定及び指導された警衛方法を順守、活用し、不法侵入者の発見、阻止に努めるべきであり、本件事故当時、本件駐とん地正門警衛勤務者は、営門出入者の取扱いとして、制服、制帽階級章によって幹部自衛官及びその随従者と認めた場合に、徒歩であるときはそれらの者に身分証明書の提示を求めて身分確認を行うことまで要求されていなかったとしても、A及びBの同乗してきたレンタカーが本件駐とん地各部隊等所属以外の部外車両であり、駐とん地内使用許可証または車友会発行のステッカーを掲示しておらず、また、前後のナンバープレートの番号が違い、後部のプレートが折曲げられている等入門時刻とあいまって不審の点があったのであるから、Aらに身分証明書の提示を求めて身分を確認し、かつ、右レンタカーを点検し、陸上自衛隊服務細則一三四条一項九号所定の部外車両出入記録簿へ記入すべき注意義務があったにも拘らず、これを怠ったものであり、右警衛勤務者は、直近の上司である本件警衛司令の指揮下にあったものであるから、右警衛勤務者の注意義務の懈怠はその指揮者である本件警衛司令の注意義務の懈怠に基づくものといわなければならない。
 そして、本件警衛司令が右注意義務を尽していたならば、Aらが身分証明書を所持せず、しかも右レンタカー前後の車両番号が異なり、その判読を妨害するためナンバープレートを折曲げている事実にも容易に気付き、Aらの挙動とあいまって右レンタカー及びA、Bに不審を抱き、必然的に車内及び搬入物品の点検をすることとなり、その結果右両名が過激派活動家であって自衛官に変装し、本件駐とん地内に侵入しようとしていた事実を突き止めこれを阻止することができたものと認められる。
 Aらが本件駐とん地内に侵入することがなければ、本件事故が発生しなかったことは、明らかである。
 従って、本件駐とん地司令及び本件警衛司令を履行補助者とする被控訴人には、営門出入の管理を適正にし、もって本件駐とん地内の自衛隊員(動哨勤務中の者を含む。)の生命、身体を危険から保護すべき安全配慮義務につき、債務不履行があったものといわざるをえない。