全 情 報

ID番号 03202
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 東北機械製作所事件
争点
事案概要  有機溶剤を使用する塗装作業に長年にわたり従事してきた木型工が、胃・十二指腸潰瘍等の罹患につき使用者に損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1982年10月18日
裁判所名 秋田地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ワ) 266 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例401号52頁
審級関係
評釈論文 山嵜進・労災職業病の企業責任〔労災職業病健康管理【1】〕123頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 被告は、人体に有害な有機溶剤たるトルエンを使用する作業場で原告を含む労働者を使用する者として、雇用契約上労働者の生命及び健康に対する危険から労働者の安全を保護すべき適切な配慮をなす義務を負うものと解すべきである。これを本件についてみると、右安全配慮義務の具体的内容として、被告は、新・旧作業場時代を通じ、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備を設けて、有機溶剤の蒸気の発生を極力防止し、あるいは局所排出装置又は全体換気装置を設けて、発生した有機溶剤の蒸気の除去、飛散の抑制をするなどの措置を講じ、まずもって労働者が有害な有機溶剤の蒸気にさらされ、これを吸引しないよう作業場の安全な環境を保持すべきであり、また特殊健康診断を所定のとおり実施し、労働者の身体の異常を的確に把握すべきであり、少なくとも旧作業場時代には、塗装作業の際ホースマスク等の保護具を使用させ、労働者の生命及び健康の安全を図るべき義務があったものというべきである。しかるに、前判示のとおり、旧作業場時代においては、かなりの濃度のトルエン蒸気が発生していたにもかかわらず、その防止や除去・軽減がなされない状態で作業が行われ、また新作業場時代においても、作業場の拡張等一応の改善がなされたものの、右蒸気の発生を防止し、それを除去・軽減するなどの措置をとる余地があるのに、少なくとも昭和四八年一一月頃まで右各措置がとられることなく作業が行われていた。またそうであればなおさらのこと、ホースマスク等の保護具を支給してトルエン蒸気の吸引を防止すべきであるのに、昭和四六年頃に至るまで、原告を含む木型工に有機ガス用防毒マスクを支給せず、更に少なくとも昭和三六年一月一日以降特殊健康診断を所定のとおり実施し、労働者の身体の異常を早期に発見し、有機溶剤による疾病を未然に防止すべきであるのに、昭和四九年二月二〇日まで実施されることがなかったのであるから、被告は、前記雇用契約上の安全配慮義務を懈怠したものといわなければならない。
 従って、被告は、原告に対し、雇用契約に基づく債務不履行により原告の被った損害を賠償する義務がある。