全 情 報

ID番号 03211
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 東急建設・吉田建設工業事件
争点
事案概要  孫請負人に雇用されている従業員がマンション建設工事現場において作業中負傷したことに関し、元請会社・下請会社と孫請業者との関係からみて元請会社および下請会社に安全配慮義務違反があったとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法10条
民法414条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 使用者の概念
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1981年2月10日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 9423 
裁判結果 一部認容
出典 タイムズ449号147頁/労働判例358号28頁/労経速報1079号13頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-使用者-使用者の概念〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 1 債務不履行責任
 (1)使用者は、労働契約に基づき、その設定する企業秩序の下で、すなわち、その指定する労働場所において、その提供する機械・設備等を利用するなどして、その指揮・命令・監督の下で、その雇用する労働者から労務の提供を受けるものであるが、これに対応して、信義則上、右のような企業秩序の下で労働者が労務に服することから生ずる危険を防止し、労働者の生命、身体、健康等を害しないよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」ということがある。)を負うものというべきである。
 ところで、請負は、本来注文者(下請の場合は元請人。以下、この項において同じ。)が請負人(下請けの場合は下請人。以下、この項において同じ。)の仕事の結果を享受するにすぎないものなのであるから、注文者は、原則として、当然には、請負人の仕事の完成の過程における事故により請負人に雇用される労働者に発生した損害を賠償すべき責任を負うことになるものではない。しかし、近時、請負による仕事の規模が拡大しその内容も複雑、多岐にわたり、これに伴い必然的に仕事の完成に要する労働の量内容も多量かつ、多種、多様となつてくるに従い、景気の変動、企業経営の効率化等の理由から、仕事の完成に必要な大量、多種・多様の職種の労働者を常時雇用しておくことが困難なため、必要に応じて、請負という契約形式によりながら、注文者が、単に仕事の完成を請負人に一任してその成果を享受するというにとどまらず、請負人の雇用する労働者を、自己の企業秩序の下に組み入れ、すなわち、自己の管理する労働場所において、自己の管理する機械・設備を利用するなどして、自己の指揮・命令・監督の下に置き、自己の望むように仕事の完成をさせ、実質的に、注文者が当該労働者を一時的に雇用して仕事をさせるのと同様の効果をおさめる場合がしばしばみられることは公知の事実である。このように、注文者と請負人との間における請負という契約の形式をとりながら、注文者が、単に仕事の結果を享受するにとどまらず、請負人の雇用する労働者から実質的に労働契約に基づいて労務の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていると認められる場合、すなわち、注文者と請負人の雇用する労働者との間に実質的に使用従属の関係が生じていると認められる場合には、その間に労働契約が存在しなくとも、信義則上、注文者は、当該労働者に対し、前記のような使用者が負う安全配慮義務と同様の安全配慮義務を負うものと解するのが相当である。