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ID番号 03235
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 海上自衛隊第三航空群事件
争点
事案概要  自衛隊員の操縦する自衛隊機に他の自衛隊員を同乗させる場合の国の安全配慮義務違反が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条2項
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1981年9月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 477 
裁判結果 控訴
出典 時報1029号83頁/タイムズ466号120頁/訟務月報28巻2号269頁
審級関係
評釈論文 岩村正彦・ジュリスト785号136頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設若しくは器具等の設置管理又は公務員が国若しくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理に当たつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべきいわゆる安全配慮義務を負うものであるが、本件のように、上司の指示のもとに、操縦士である自衛隊員が機長として乗務し、かつ、自ら操縦する自衛隊の航空機に、他の部下である自衛隊員を公務として同乗させる場合においては、右の操縦士である機長は、右の部下であり、かつ、同乗者である自衛隊員に対する国の安全配慮義務につきその履行補助者となるものというべきである。そして、国の安全配慮義務の具体的内容は、当該公務員の職種、地位、遂行すべき公務の内容、安全配慮義務が問題となる具体的状況等によつて異なるものと解すべきであるが、右のような、上司の指示のもとに、操縦士である自衛隊員の操縦する自衛隊機に、他の自衛隊員を公務として同乗させる場合の国の同乗員に対する安全配慮義務の内容は、十分に訓練されて適正な操縦をなし得る技能を備えた操縦士を選任配置し、かつ、その運航を誘導すべく適切な航空交通管制を実施すること等につき周到な配慮をなすのとあわせて、構造上・整備上瑕疵のない航空機を使用させることにあるものと解するのが相当である。しかし、それはまた必ずしも常に、現実にその業務を担当する者の注意義務の内容と一致するというわけでもないのであつて、右の現実の業務担当者が国の安全配慮義務の履行補助者である場合には、履行補助者としての義務違反ないしその不履行があるかどうかの問題と、当該業務担当者に、履行補助者の立場とかかわりない義務違反ないしその不履行があるかどうかの問題とは、これを区別して考えるべきものである。
 従つて、現実の業務担当者の義務違反が当然に国の安全配慮義務違反となるものではない。そして、前記機長である操縦士は、同乗員の機内における行動を管理して、航空機の運航中における操縦等に危険が生じないようにすべき点において、国の履行補助者の地位にあるのであるが、操縦士の操縦行為そのものには、何ら他の同乗員に対する管理作用を含んでいないから、右操縦士の操縦行為そのものにつき右操縦士が国の安全配慮義務の履行補助者となることを考える余地はなく、それゆえ特段の事情のある場合は兎も角として、一般には、操縦士に操縦上の過失が存したとしても、そのことにつき別途不法行為法上の責任を生ずるか否かは別として、国の安全配慮義務に欠けるところがあるものとすることはできないのである。
 (中略)
 7 これを要するに、結局本件においては、被告において、構造上、整備上瑕疵のない航空機を使用させる、という被告の安全配慮義務が尽されたか否かが、その検討されるべき最後の問題であるということになるが、以上までに述べたところから明らかなように、本件では、原告らの全立証その他本件全証拠によるも被告の右義務が尽くされなかつたことについての原告らの立証は十分でないことに帰着するものといわなければならない。
 8 以上によれば、被告の安全配慮義務違反を主張する原告らの損害賠償請求も、その余の点について検討するまでもなく、理由がない。