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ID番号 03236
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 昭和電極事件
争点
事案概要  黒鉛電極製造工場における肺がん・食道がんの罹患に関し、雇傭主に労働契約上の安全配慮義務違反があるとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法8章
労働者災害補償保険法3章
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1981年10月30日
裁判所名 神戸地尼崎支
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ワ) 563 
裁判結果 一部認容
出典 時報1023号3頁/労働判例374号46頁
審級関係 控訴審/03040/大阪高/昭62. 3.31/昭和56年(ネ)2188号
評釈論文 藤原精吾・労働法律旬報1051号42頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 労働契約においては、使用者は労働者に対し労働の場所を指定し、設備、機械等の手段を提供して労務の給付を受けるのであるから、労働者が安全及び衛生の保持された状態で就労できるように配慮し、労働者の生命・健康等を保護する義務を負うものと解すべきである。したがって、使用者は、労働者が就労する過程において発生する健康障害の発生を未然に防止する義務がある。
 前記二及び四で認定したとおり、被告工場ではコールタール分を含有する有害な粉じん、ガス等が発生し、従業員がこれを吸引又は嚥下するとじん肺及びがんにかかりやすく、これに接触すると皮膚障害をおこすことになるのであるから、被告としては、粉じん、ガス等の発生を極力防止する措置を取り、さらに発生した粉じん、ガス等の除去、飛散の抑制をするなど可能なかぎりの措置を講じて、従業員が前記の健康障害にかからないよう配慮すべき義務があったものというべきである。
 ところが、前記認定のとおり、昭和三八年ころまでの旧工場時代には右の各措置が配慮された形跡はほとんどなく、同三九年以降の新工場時代においても、機械、装置の改善はされたものの、粉じん等の発生防止及び飛散の抑制措置が不完全であり、機械、装置の自動化・密閉化その他の面でも未だ相当に改善の余地が残されていたのにその措置が取られず、その対応策も後手に回り、従業員はいぜんとして有害な濃度の粉じん、蒸気、ガスの中で就労せざるをえなかったのであるから、被告は前記健康保護義務を怠っていたものといわなければならない。
 被告主張の安全衛生措置だけでは、未だ右義務を尽したものと認めることはできないから、被告の主張は採用することができない。
 したがって、被告は右債務の不完全履行により亡A・Bに被らせた損害を賠償する義務がある。