全 情 報

ID番号 03248
事件名 労働契約存在確認等請求事件
いわゆる事件名 福栄運輸事件
争点
事案概要  企業閉鎖した運送会社に雇用されていた従業員が、右会社の出資持分の過半数を所有していた元代表者に対し、法人格否認の法理にもとづく労働契約の存在確認を請求した事件につき、いまだ法人格が形骸化しているとはいえないとして右請求を棄却した事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の承継 / その他
裁判年月日 1980年3月18日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ワ) 726 
裁判結果 棄却
出典 労働判例338号32頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約の承継-その他〕
 ところで、原告らは本訴において、A会社の実質的代表者は現在なお被告であることを前提としたうえ、被告に対し所謂法人格否認の法理により原告らがA会社に対して有する賃金債権の支払および労働契約上の地位の確認を求めるものであるところ、法人格否認の法理が適用され、会社の債務につき会社の背後にある個人の責任が肯定されるのは、法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用される場合に限られるものと解すべきであるから(最高裁昭和四四年二月二七日判決、民集二三巻二号五一一頁参照)、被告が代表取締役退任登記後もなおA会社の実質的代表者たる地位にあったか否かはともかくとして、まず本件の場合右法人格否認の法理を適用すべき要件が存在するか否かにつき検討することとする。
 (中略)
 (四) 右(一)ないし(三)に判示の事情を総合して考えると、A会社においては社員総会や取締役会等法の要求する正規の意思決定手続がとられずほぼ被告の独断によって会社の業務が遂行されていたことは認められるものの、しかし、従業員数やその営業場所等からして会社の業務と被告個人の経済活動とは明確に区別できる状態にあったものというべく、また個人財産と会社財産とに混同があったものとも認められないから、未だA会社の法人格が形骸化していたものとはいえないというべきである。
 2 次に、法人格の濫用の有無につき検討する。
 (1) 原告らは、被告が組合に対する組織攻撃、使用者としての責任回避の手段として法人形態を濫用したものである旨主張する。しかし、そもそも法人格の濫用がある場合に法人格否認の法理が適用されるのは、法人の背後にある者が違法または不当な目的で法人形態を利用する結果、会社債権者が本来自己の債権確保のため追及し得べきはずの財産が不当に債務者の下から逸出するのを防止することにあると解すべきところ、法人における代表者の交代自体は、右のような会社債権者の債権確保のための財産を失わせる行為ではないから、代表者の交代が原告ら主張の目的でなされたものであるからといって、法人格否認の法理を適用すべきものとは解し難い。