全 情 報

ID番号 03261
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 姫路赤十字病院事件
争点
事案概要  看護婦長による患者収容準備およびその収容の指示を拒否したことを理由とする看護婦に対する懲戒解雇につき、右婦長の言動は問い合せであって命令とまではいえなかったとして、右解雇を無効とした事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1980年5月19日
裁判所名 神戸地姫路支
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ワ) 249 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例349号30頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
4 以上認定説示のところにてらせば、A婦長は患者Bの入院を予想し、収容手続を円滑に行うため、正式の入院決定前、原告に対し、本館四階外科病棟の状況を打診(問合せ)したところ、原告から病棟の繁忙を理由に新患の収容が困難である旨の回答があったというものであり、その際、Aが原告に入院の決定を告知し、または、病床準備の指示を明示的には勿論、黙示的にもなしたとは到底認められず(これを認める証拠はない)、したがって、原告がこれを拒否したものということはできないから、原告がA婦長の指示命令に反抗したとはなしがたく、かつまた、原告がAの前記打診に対し自己病棟の状況を説明し新患収容の難易につき自らの意見を具申することは、勤務看護婦の職責に適合し、前記就業規則一七条により当然許容されているところであり、また、原告の前記発言は、その内容程度において右意見具申権限を逸脱し、故らに反対を唱えているものとはみられず、患者の他院収容の発言についても、A婦長の質問に素直に返答したものと四囲の情況から読みとれ、かつ、その内容においても、患者の重篤なことからその可及的安全をはかるべく、より円滑な収容・手当を期する趣旨から出たものであると解され(したがって、いわゆるタライ回しの発言ではない)、したがって、原告の右発言(意見具申)により、A婦長の職務が故らに阻害されたことはなく、原告自身そのような意図があったとも到底認めがたい。
 5 もっとも、被告は、C病院では当直婦長が病棟看護婦に空床の種類を問合わせ、患者収容の希望を述べることはその旨の指示命令に他ならず、右看護婦もその指示と了解して行動するのが通常であり、本件の場合もA婦長の言動は患者収容の指示である、と主張し、(人証略)中には右主張に沿う部分があるが、本件の場合、前示のとおり、いまだ医師により正式の入院決定がなされたわけではなく、かつ、また、患者収容の準備の点からしても、当直婦長は病棟看護婦に問合せ前に空床の種類を把握しているわけでなく、したがって、当直婦長からの空床の種類の問合せ自体が直ちに収容準備命令の存在を前提としているものと理解することは困難であり、また、当直婦長から患者収容の希望が開陳されたとしても、それだけから直ちに収容指示を含むものと解することは、たとえ女性同士の職場の事柄であることを勘案しても、社会通念にてらし即坐に首肯することはできず、諸般の状況にてらしてその肯否を決するほかはないところ、本件においては、A婦長は定時の病棟巡回に際し、しかも帰り際に空床の有無等を問合せているものであり、当該患者に対する入院決定の存在を告知しておらず、かつ、右患者は目下搬送中であるというのであって(しかも遠方より)、即刻収容の必要に迫られていたわけではなく、さらに、別科(内科)の患者であって卒倒中という重篤な状況にあることからして軽々に事を運びかねる事情がある等からすれば、A婦長の本件発言は単なる問合せ(打診)の域を脱しないものとみるのが相当であり、したがって前記各証言はにわかに措信することができず、被告の前記主張は採用することができない。
 6 以上のとおりであるから、原告の前記言動は職務上の指示命令を反抗したものとも、また、業務の遂行を阻害したものとも到底いえないから、原告に就業規則一二八条四号、六号に該当する事由のあったことを理由とする本件解雇は無効である。