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ID番号 03287
事件名 配置転換無効確認等請求事件
いわゆる事件名 女子学院事件
争点
事案概要  職場規律紊乱等を理由とする学校事務職員に対する解雇予告は権利濫用とされ、右解雇予告通知書を職員等の前で読み上げたことが名誉侵害にあたるとして損害賠償請求が認容された事例。
 学校事務職員に対する会計事務から庶務課設備係への配転は雇庸契約で定められた範囲内のものであり人事権の濫用にもあたらず有効とされた事例。
参照法条 労働基準法20条
労働基準法2章
民法1条3項
民法709条
民法710条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
解雇(民事) / 解雇予告 / 解雇予告違反と不法行為
裁判年月日 1979年3月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 2672 
裁判結果 一部認容(確定)
出典 時報928号113頁/労経速報1009号18頁/労働判例324号56頁
審級関係
評釈論文 秋田成就・昭和54年度重要判例解説〔ジュリスト718号〕254頁/小西国友・労働判例325号4頁/小西国友・労働判例331号4頁
判決理由 〔解雇-解雇予告-解雇予告違反と不法行為〕
 しかるところ、前記2で認定したように、本件解雇予告の理由とされた事実は、いずれも就業規則の右各規定に該当しないか、又は原告に極めて軽微な責任しか負わせることができない場合(前記2(五))であり、他に原告を解雇すべき相当の理由も見当らないから、本件解雇予告は権利の濫用として違法であり、被告にはこのような理由で解雇予告をしてはならないのにこれを発したことにつき過失があるものということができ、《証拠略》によれば、これにより原告は精神的損害を受けたことが認められる。
 三 A院長が昭和五〇年五月六日教員により教育上の諸問題を討議する場である教育会議の席上本件解雇予告通知書記載の理由により原告に対し解雇予告を発したことを説明し、さらにB事務長が同月七日定例の事務打合会《証拠略》によれば、二〇人位の事務職員の出席する会議であることが認められる。)の席上右通知書を読み上げてこれを発表したことは当事者間に争いがなく、右の説明ないし発表行為が被告の意を受けて行われたことは、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。
 右事実に、前記二のとおり本件解雇予告の理由とされた事実がいずれも就業規則の前記各規定に該当しないか、又は原告に極めて軽微な責任しか負わせることができず、本件解雇予告が権利の濫用として違法であることを併せ考えると、右説明ないし発表は、事実はそうでないのに、原告が誠実にその職務を遂行せず、学院の秩序又は職場規律を乱し、職員としての能力を著しく欠き、懲戒免職を受けるべき事由があったとの印象を多数の被告の職員に与えたものということができ、被告は、過失により違法に原告の名誉を傷つけたものというべきである。
 四 《証拠略》によれば、原告が昭和五〇年四月三〇日前記二2(二)で判示した書面を提出したのに対し、被告が同年七月九日付書面で、(一)当時の管理体制に種々不備な点があったことを認める、(二)原告の反省と今後への決意を評価する、(三)解雇予告通知は妥当性を欠く点があったことを認める、特にその内容に原告の職員としての能力について原告の名誉を傷つけかねない誤解を招いたことは遺憾であったとして本件解雇予告を撤回したこと、本件訴訟の提起は、その後同年一〇月七日付の配置転換により原被告間に争いが再燃したことが契機になっていることが認められる。したがって、前記二及び三で判示した原告の精神的損害は、一旦かなりの程度填補されたと解すべきものであり、前記二及び三で認定した事実その他本件にあらわれた一切の事情を考慮し、被告のなすべき損害賠償の額は二〇万円をもって相当と認める。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 被告の事務分掌自体がそれ程精緻に構成されたものとは考えられず、原告は、昭和三八年一月当時たまたま被告の会計担当職員の欠員補充として採用されたため一定の簿記会計上の知識は必要とされていたが、将来会計に専務する職員として採用されたものではなく、学院の事務部門の事務全般に従事することを雇傭契約の内容としていたものと解するのが相当である。
 したがって、本件配置転換は、原被告間の雇傭契約で定められた業務の範囲を逸脱するものではない。
 3 原告は、被告とその職員との間で配置転換には当該職員の同意を要するとの事実たる慣習が成立していたと主張し、甲第二号証(女子学院教職員労働組合編「女子学院労働協約、就業規則、他」)中には「校務分掌、希望合議制」との記載があるが、《証拠略》によれば、被告と労働組合との間では、配置転換は希望、合意の上で行うとの労働協約は結ばれていないし、少なくとも事務職員についてはそのような慣行もないことが認められるので、右主張は採用できない。
 4 原告は、本件配置転換が人事権の濫用である旨主張する。
 しかし、《証拠略》によれば、学院においては従来配置転換があまり行われていなかったが、B事務長就任以来、学院の規模が小さいのでどの職員も各係の仕事ができるようにさせることと職員が同一の係に長く留まって職員間の融和が欠けていたので担当事務を変更することによりお互いの協調性を抽き出すこととを企図し、併せて心機一転をも図るため、昭和五〇年一〇月配置転換を行うことを計画し、とりあえず、文書担当のCと教務担当のDを、会計担当の原告と設備担当のEをそれぞれ入替える配置転換をしたこと、設備係の事務は、学校の設備品等で不備な個所があればその報告を受け、不備な個所を確認し、業者によって処理すべきものは事務長の判断を得て外注し、学院内で処理できるものは不備の内容に応じて各担当者に手配し、作業の完了状況の確認をした上、不備な個所の報告をして来た者に完了の通知をし、所要の帳簿上の処理をするものであり、いわゆる力仕事ではないことが認められる。
 右事実によれば、本件配置転換が原告に自発的退職を余儀なくさせるためになされたものということはできず、他に本件配置転換が右のような目的の下になされたことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、本件配置転換は人事権の濫用ということはできず、この点についての原告の主張も採用できない。