全 情 報

ID番号 03335
事件名 地位保全・金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 大和製作所事件
争点
事案概要  大学四年中退を高校卒業と詐称したことを理由として懲戒解雇事由に該当するとして通常解雇された者がその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 経歴詐称
裁判年月日 1978年2月10日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和52年 (ヨ) 2437 
裁判結果 却下
出典 労働判例298号77頁/労経速報990号26頁
審級関係
評釈論文 野田進・ジュリスト692号142頁
判決理由 〔解雇-解雇事由-経歴詐称〕
 一般に就業規則等において経歴詐称が労働者に対する懲戒事由とされることがあるのは、労働関係が信頼関係を基盤とする労使間の継続的契約関係であるところから、そのような関係に入ろうとする労働者は、使用者による知能、教育程度、性格、経験等全人格的判断の一資料である自己の経歴についても真実ありのままを申告し、いやしくも虚偽の事実を述べたり真実を秘匿したりしてその判断を誤まらせることのないよう留意すべき信義則上の義務を負うものであり、かつ、経歴詐称はまさにそのような信義則上の義務に違背する背信行為とみられるからであり、また、その結果、使用者をして当該労働者の労働力の評価を誤まらせ、ひいては適正な労務配置を阻害するなどして企業秩序を乱すこととなる危険が生ずるからであると解せられ、被申請人会社の前記就業規則の懲戒規定もそのような趣旨に出たものとみることができるが、かかる観点から本件の場合を考えてみると、申請人が最終学歴である国立A大学理学部中退の事実をことさらに履歴書に記載しないでこれを秘匿したことは明らかに「経歴の詐称」にあたり、かつ、会社の製造部門における人員構成ならびに新入社員の採用方針が前記のごときものである以上、かりにその事実が履歴書に記載されていたならば会社が申請人を雇用するようなことは決してなかったであろうと考えられるのであって、それらの点からするならば、それが学歴を実際よりも低く詐称するものではあっても、「重要な」経歴の詐称にあたると認めるのが相当というべきである。
(中略)
 最終学歴を秘匿した申請人の行為が「重要な経歴の詐称」にあたるとはいえ経歴を実際よりも低く詐称したものであることは前記のとおりであり、また、疎明資料によれば、申請人が会社に雇用されたのち、現場従業員とともに作業する過程で他の従業員に若干不愉快な感情をおこさせるような言動をとったことが窺われはするものの、それが果して申請人が高学歴者であることによるものかどうかは明らかでなく、その意味において、右経歴詐称による重大かつ明白な企業秩序の紊乱が現に発生しているものとは認めがたいけれども、他方、申請人がことさらに国立A大学理学部中退の事実を秘匿して会社の求人に応じようとした理由として申請人の述べるところはいずれも、真実をありのままに申告しなかった理由としては薄弱で首肯しがたいものであり、結局は、これを事実のとおりに申告すれば雇用されない公算が大であることを見越して秘匿したものとみるよりほかはなく、その動機において同情すべきものはなんら存在しないことや、その他被申請人会社における現場作業員の最終学歴のもつ意義の重要性、申請人が会社に雇用されてから解雇されるまでの期間が一月余にすぎなかったことなど諸般の事情をあわせ考えるならば、本件解雇が解雇権の濫用にわたるとまで認めることはできないといわざるをえない。