全 情 報

ID番号 03339
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 常石造船所・宮地工作事件
争点
事案概要  造船所内での船舶の修理作業中に破損機械の落下により足場板が損壊してその上にいた作業員が渠底に転落して死亡した事故について下請業者および元請業者の安全配慮義務違反等の責任が問われた事例。
参照法条 民法415条
労働安全衛生法15条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1978年2月28日
裁判所名 広島地尾道支
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ワ) 44 
裁判結果 一部認容・棄却(確定)
出典 時報901号93頁/労働判例296号49頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 事業者は、労基法四二条、労安法三条により単に労働災害の防止のための最低基準を守るだけでは足りず、職場における労働者の安全と健康を確保することを要請され、右責務に基づき、機械、器具その他の設備による危険を防止するため必要な措置を講じなければならない(労安法二〇条一項一号)ことは言うまでもないが、これらの規定から、直ちに原告ら主張の右作為義務が認められるものではないであろう。しかし、被告Yの現場責任者であるAは前記認定の方法でジャッキ受けをプロペラシャフトにセットしようとして、それができなかったものであるところ、右の事情を知らないで作業を交替した亡Bは、右ジャッキ受けのはめ込み作業を初めて行うのであるから、同人と同様の方法で作業をするうち、その操作の仕方を誤り、場合によっては、ジャッキ受けが大きく、しかも重量があり、夜間の、高所における作業のこととて、その身体の自由を奪われるなどして作業足場から墜落するなどの危険があることも全く予想されないわけではなく、AがCにシャックルを取りにやったいきさつからみて、容易にその作業手順を指示しうる立場にあったものであるから、被告Yの責任者として、条理上その作業手順を示し、もって事故の発生を未然に防止すべきものである。のみならず、本件足場は高さ四・七メートルの作業床であり、そのプロペラ側及び舵側には、前記のとおり開口部で、墜落の危険のある個所があったものであるところ、前掲各証拠によると、作業のため囲い等を設けることが著しく困難であったことが認められるから、被告Yは、右高所作業をさせるに当って、労働安全衛生規則五一九条により右各開口部に防網を張り又は亡Bらに安全帯(命綱)を使用させる義務がある(被告らも同条による義務があること自体は争っていない。)
 しかるに、亡Bの使用者である被告Yは、右いずれの義務も怠り、ジャッキ受けの安全な作業手順を示さず、また作業床の開口部に防網を張らず、また亡Bに安全帯を使用させることもしなかったため、本件事故を発生させたのであるから、右雇傭契約に付随するいわゆる安全配慮義務違反による債務不履行の責任を負うべきものである。