全 情 報

ID番号 03379
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 当栄ケミカル事件
争点
事案概要  腰痛の長期療養後になされた長距離トラック運転手に対する工場勤務への配転命令の拒否を理由とする解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
退職 / 合意解約
裁判年月日 1978年12月14日
裁判所名 長野地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ヨ) 50 
裁判結果 却下
出典 労働判例314号58頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-合意解約〕
 昭和五二年三月一六日、債権者は同日までの成り行きから会社は債権者を解雇するにちがいないと信じて、会社の方針がそうであるならばはやく退職に伴う一切の手続をとるよう要求したこと、これに対し、Aはまだ債権者を解雇することを最終的に決定したわけではないとして直ちにはこれに応ぜず、債権者のためにも希望退職してもらった方がよい旨説明したが、債権者は希望退職をあくまで拒否し、Aが債権者の取り扱いについて結論を留保しようとするのに対し、「いつまでも結論を延ばされるのは困る。会社は、債権者のためにいろいろ考えなくともよい。会社は会社の思うとおりの理由で解雇すればよい。」旨を言って結論を出すよう迫ったこと、そこで大沢は債権者に対し四月二〇日付解雇を言い渡したこと、以上の事実を認めることができる。右認定事実によれば、債権者の前記発言は、会社が債権者を任意退職させようとすることに反発してなされたものであることが明白であり、当時の債権者の真意が解約を承諾する意思であったとはとうてい認められず、他に債権者が雇用契約の解約を承諾したことを認めるべき証拠はない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 当時会社とその従業員の大部分が加入(ただし債権者は未加入)しているB労働組合間の労働協約には、「業務内容に変更を伴なう配置転換については、本人の意見を尊重すると共に生活条件を勘案する」旨規定され、意見尊重とは「特に重大な支障のない限り相手方の意見を採用して、権限を有する者がその行為を行なうものをいう」と規定されていて、会社に配転命令の権限があることを当然の前提として規定されていることが認められる。そして右の各規定もまた、労働組合法一六条、一七条により、債権者と会社の労働契約の内容となっているものと解すべきであるから、債権者に対し、運転手と異なる業務への配置転換を命ずることは本人の同意のない限り一切許されないとまではいうことはできず、合理的理由のある場合には、会社は債権者に対し、運転手と異なる業務への配置転換を命ずることができるものといわなければならない。
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 会社は本件配転命令の理由として過去の腰痛の発症歴及び長期間の休業の事実から運転業務に従事するには重大な支障があるということを債権者に説明しているのだから、債権者がどうしても運転業務に従事することを希望するなら、債権者において前記C医師の診断書に相当する程度の客観的資料をもって、会社の前記疑問に答えることが要求されてしかるべきところ、本件配転に至る経過において債権者が提出したのは必ずしも医学的に十分信頼性があるとはいえない整骨師の診断証明書だけである。そうである以上、過去の既応症歴及び長期間の休業の事実からみて直ちに運転業務に従事させることはできないとした会社の判断は当時の事情にてらせば相当なものというべきであって、これを恣意的なものとすることはできない。工場勤務の場合に運転手当時より収入面、精神面である程度の不利益のあることは否定できないけれども、工場勤務はあくまで運転業務に就くための体慣らしとして行う暫定的なものであることは、本件配転をめぐる交渉の過程で会社が明言しているのみならず、そのような措置は現実に会社が実行した前例としてあるのであるから、七か月余も病気休業し、かつ、その後病気の回復を会社に十分納得させるべき客観的資料を提出しなかった債権者としては、その程度の不利益はやむをえないものとして甘受すべきものと言わざるをえない。