全 情 報

ID番号 03389
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 全逓南部小包集中局支部職員事件
争点
事案概要  全逓の組合員が行った庁内デモおよび抗議行動の際に、管理者側として庁舎警備にあたっていた者がデモをしている組合員に対し暴行を働いたとして国賠法上の賠償請求がなされた事例。
参照法条 国家賠償法1条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 信義則上の義務・忠実義務
裁判年月日 1977年3月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ワ) 5986 
昭和49年 (ワ) 8758 
裁判結果 一部認容・棄却(控訴)
出典 時報875号69頁
審級関係 控訴審/東京高/昭55.11.26/昭和52年(ネ)896号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-信義則上の義務・忠実義務〕
 およそ国家賠償法一条一項により国又は公共団体が賠償責任を負うべき場合に、当該違法行為をなした公務員も賠償責任を負うものか否かについては、これを消極に解するものが相当である。
 原告は、国家賠償法一条は国の自己責任を定めた規定であり、当該公務員の免責を認めることは一般私人の場合に比して公務員を過当に保護することになって著しく権衡を失するし、また、公務執行の適正を担保するという観点からしても、公務員に故意又は重過失があるときには賠償責任を肯定すべき旨主張する。
 しかしながら、(一)国家賠償法一条一項は「国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」ことを明言し、これにつづけて同条二項において公務員に対する求償権を規定するとともに、これに応じて同法附則において、従前、公証人や戸籍吏等に賠償責任を負わせていた規定(公証人法六条、戸籍法四条等)を削除していること、(二)賠償能力の観点からすれば、国又は公共団体が賠償責任を負うことによって、被害者に対する損害填補という本来の目的は完全に達成されるのであるから、賠償能力のより乏しい公務員の賠償責任を重複して認める必要はないこと、(三)当該公務員の職務内容から考えて、当該違法行為が被害者の公務員に対する信頼に反し被害者に著しい精神的苦痛を与えるような場合には、慰謝料の額を算定する際に右事情を充分考慮すれば足りるのであって、それ以上に、当該公務員に応訴活動の負担や強制執行を課すことによって被害者の報復感情を満たそうとする意図は本来の目的を逸脱した不当なものといわざるを得ないこと、(四)民法四四条一項又は同法七一五条一項により法人又は使用者が賠償責任を負う場合と国又は公共団体のそれとでは賠償能力に格段の差異がある場合が多いから、法人の機関である個人又は被用者の賠償責任を存置する合理性がないとはいえず、右の差異は公務員を特に保護しようとするためのものではないし、実際にも法人や使用者の賠償能力が充分であれば、法人の機関である個人や被用者に対する賠償責任が追及されない事態はしばしばであって、一概に不権衡を論じえないこと、(五)公務執行の適正を担保するという面においても、公務員の違法行為を理由として国又は公共団体に賠償責任を追及し得ること自体、さらには国又は公共団体が当該公務員に求償し、また、懲戒を課すことができることからすれば、必ずしも当該公務員に賠償責任を認めなくとも前記目的は充分に達成されること、等の諸点を考慮すれば、原告の前記主張には、にわかに左袒しがたい。