全 情 報

ID番号 03392
事件名 他位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 鈴江内外国特許事務所事件
争点
事案概要  企業を顧客とする特許事務所の事務員が指名手配中の共産同エル・ゲーの一員をかくまった容疑で逮捕され新聞テレビ等で顔写真入りで報道されたことを理由として懲戒解雇され、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜
裁判年月日 1977年4月8日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和51年 (ヨ) 2413 
裁判結果 認容(異議申立)
出典 時報867号112頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
 前記疎明事実に基づいて考えるとき、従業員たる申請人が逮捕されたということは、その内容が所謂Aなる反社会的組織の一員として犯行に加担したというものであるだけに、それ自体被申請人にとってその信用を損う由々しい出来事であり、被申請人の事務所は右逮捕の報道によって顧客たる企業から不信感を持たれ、敬遠される虞すら生じかねず、更に信用を唯一の基盤とする業務であることからも、これだけで事務所の存立に影響を及ぼすことになるという事情は十分推測できるところである。従って、申請人が所謂Aなる組織に連る者として、逮捕にかかる事実を犯した者であるならば、その組織集団の所行に対する非難の厳しい折から、躇躊なく右各懲戒事由に該当するということができよう。もっとも、被申請人は申請人の犯行を確認しこれを理由に懲戒したのではなく、前記認定のように世間に広く報道されたことを理由とする。しかし、そのような報道がされ、ひいてはそれが前記各懲戒事由に該当することをもって申請人の行為によるものとしてその責に帰せしめるには、結局申請人が前記被疑事実を犯したかどうかにかかるというべきである
 ところが、本件においては、申請人が果して真実にかかる犯行をなしたかどうかについて、右懲戒解雇の意思表示のあった時点では、僅かに申請人が逮捕されたという事実が疎明されるのみで、他にこれを判断する資料は見当らない。もとより申請人の犯罪を認定する資料として確定した有罪判定の存在が不可欠であるとまでいうことはできないが、唯申請人がその犯行を自認しているとか、現行犯逮捕されたとかで明白な場合はともかく、そうでなければ被申請人独自の調査によって得た資料等一応人をして納得せしめるものがあることを要すると解される。そして逮捕状とて何らかの資料に基づいて発付されるものであるから、勾留、起訴に比べて程度の差があるにせよ、これによって一応犯罪の嫌疑が客観化されたものと見られないわけではない。だからといって、これだけで直ちに申請人の犯行を認定することはいささか速断に過ぎるといわざるを得ない。況んや申請人は勾留後、前後して逮捕された者が起訴されたにも拘らず、処分保留のまま釈放された末、嫌疑不十分として不起訴処分を受けたというその後の事情を考慮すれば、尚更のことといわなければならない。
 (中略)
 そうすると、申請人の犯行についての疎明は未だ不十分と言う外なく、従って前記報道を申請人の責に帰せしめることはできないので、結局被申請人が申請人に対してなした懲戒解雇の意思表示は就業規則の懲戒規定の適用を誤ったものとして無効といわなければならない。