全 情 報

ID番号 03423
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 鉄道整備事件
争点
事案概要  六〇歳定年制により定年退職後、臨時職員となり六カ月ごとに再雇傭されて六四歳に達したものにつき契約を更新しなかったことが権利濫用にはあたらないとされた事例。
参照法条 民法1条3項
民法628条
労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 1977年12月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和52年 (ヨ) 2284 
裁判結果 却下(抗告)
出典 時報892号103頁/労経速報973号10頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔退職-定年・再雇用〕
 三 右事実関係に基づいて検討する。
 1 債権者は、大井事業所首席副長Aが昭和五〇年九月中に債権者に対し、六八歳あるいは六九歳まで契約更新を続ける旨確約した、と主張する。
 果して同人がそのようなことを約したかどうか、本件疏明資料中債権者の陳述を記載したもののほかにはこれを疏明する資料はなく、これとても債権者の主張を裏付けるには、必ずしも明確ではない。のみならず、同人がかかることを自己の一存で決める権限に欠けていることは前示のとおりであるから、仮に同人がそう発言したとしても、当時高令者がいた事実を述べた以上の趣旨を出ないものと見得るところである。
 2 債権者の臨時職員としての有期雇傭契約が昭和四八年一〇月一日以降六か月毎に更新を繰返してきたことは前示のとおりである。しかし、定年退職後の有期雇傭契約更新の繰返を、一般の臨時工のそれと同列に考えることは、その実態・運用から見ても、相当でないと考えられる。定年退職後のそれには、自ら制約が伴うものというべきである。債務者会社では、若年労働者の不足に応じ、定年延長の取扱をしてもなお不足を生ずるので、それに応じて定量の労働力を確保する必要から、延長された定年の退職者をもってこれに充てていたことになるので、単に従業員数が満たされたかどうかが問題になるのではないということができる。一般に、高令になる程作業能率が低下し、危険が増すことはあらためていうまでもないことであって、従って、債務者会社ができるだけ若年の労働者によるべく、その補充に努めて、高令者との入替を図ってきたことは前示のとおりである。そこには定年制度と類似した考慮が働いていたことを看取できる。定年制度をもって不合理なものと断じ得ぬように、右のような運営をもって、債権者の主張するような、債務者会社が老令者職場であるとして、老令者の排除を不合理と断じ、非難することは困難である。唯、更新拒絶(傭止)が恣意に流れた場合には、解雇の法理に準じて、権利の濫用をもって論ずべきである。本件では、債務者会社には六四歳を超える臨時職員は既になく、しかも六〇歳の定年退職者を逐次臨時職員に採用している状況と、本件疏明資料によって窺える債権者の作業能率の低下・危険性の増大という事実に加えて、債務者会社が傭止にあたって六か月以上も前から予告していたことを綜合するとき、債権者に掬すべき事情があることを考慮しても、本件の更新拒絶をもって権利の濫用ということはできない。