全 情 報

ID番号 03435
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日本電信電話公社地位確認等請求事件
争点
事案概要  安保反対、首相訪米阻止デモに参加し警察官に暴行を加え公務執行妨害罪で起訴された電々公社職員が起訴休職処分に付され、その後右刑事事件について最高裁で有罪判決が確定し、それを理由に免職処分に付されたことにつきその効力を争った事例。
参照法条 日本電信電話公社法31条
日本電信電話公社法32条1項2号
体系項目 休職 / 起訴休職 / 休職制度の合理性
解雇(民事) / 解雇事由 / 企業外非行
裁判年月日 1976年3月12日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ワ) 67 
裁判結果 (確定)
出典 訟務月報22巻4号980頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔休職-起訴休職-休職制度の合理性〕
 被告公社は、公衆電気通信事業を合理的かつ能率的に経営し、電気通信による国民の利便を確保するため、日本国内における公衆電気通信事業を独占的に行なうべく、政府が全額を出資し、法律によつて設立された公企業であり、その行なう公衆電気通信事業は国の神経系統ともいわれるきわめて高度の公益性を有するものであり(公社法第一条、第五条等参照)、したがつて、業務の遂行にあたつては、すべての職員は法令、および公社が定める業務上の規程に誠実に従い、全力をあげて職務遂行に専念すべき義務を負うものとされ(同法第三四条)、また右規定に基づいて制定された就業規則(〈証拠略〉)第九条によれば、職員は、公社の信用を傷つけ、または従業員全体の不名誉となるような行為をしてはならないとされているのであつて、このような被告公社の義務の高度の公共性の故に、刑事事件に関し起訴され、公の嫌疑を受けた職員をそのまま公社の職務に従事させることは、高度に公益性のある公社の職場における規律ないし秩序に影響するところが大であるのみならず、公社の国民に対する信用を失墜させるおそれのあること、さらには職員の上記職務専念義務に支障を生ずる可能性があると考えられ、それ故に、法律はとくに公務員と同様公社職員についても刑事休職制度を設け、公社の業務に対する国民の信用を保持し、かつ職場秩序を維持し、さらには職務専念義務に支障なからしめんとしたものと解せられるのであつて、公社における起訴休職処分の適否を判断するに当つては、一般の私企業と異りこの点に格別の留意を払う必要があるものと解される。
 公社法三一条所定のいわゆる分限制度は、公社業務の能率の維持および公社に対する社会的信用の維持等その適正な運営の確保の目的から、同条に定める一定の事由により公社の業務運営上支障となる職員を公社自体あるいは当該の職務から排除する権限を任命権者に与えるとともに、他方被告公社の職員の身分保障の見地からその権限を発動し得る場合を限定したものである。分限制度のこのような趣旨および目的ならびに右条項に定められた免職事由が処分対象者の行動、態度、性格、状態等に関する一定の評価を内容として定められていることを考慮するときは、分限上の措置をするについて分限権者に裁量の余地があることが認められるが、そこには一定の限界があるのであつて、分限制度の目的と関係のない目的ないし動機に基づく場合、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断した場合、およびその判断が合理性をもつ判断として許容される限度を超えた不当なものである場合には、そこでとられた分限上の措置は、裁量権の行使を誤つた違法のものというべきである。ことに、分限上の措置として免職を選択する場合には、いわゆる終身を通常とする雇傭の現状のなかで、公社職員としての地位を失う、いわば極刑に等しい結果を生ずるものであるから、特に厳密で慎重な運用が要請されるのである。
 なお、また分限免職以外に公社から強制的に身分排除される場合として、公社法三三条の定める懲戒免職があるが、これは公社の企業秩序維持の観点から一定の非違行為につき道義的非難を加えるもので、当該職員の個々の行為または状態を問題とするのに対し、分限免職は公社の能率的かつ適正な業務運営の観点から職務遂行の妨げとなる矯正しがたい属性を有する職員を排除しようとするもので、一定の期間にわたつて継続している状態を問題とする(一定の非違行為が問題となる場合にも、それ自体を問題とするのではなく、それを徴表とする行為者の性格、能力が永続的、矯正不能か否かの観点から問題とする。)。
 そこで就業規則五五条一項五号の「禁錮以上の刑に処せられたとき」に分限免職し得るとの規定は、公社法三一条三号の趣旨を具体化したものと認むべきであるが、以上説示したところからして、禁錮以上の刑に処せられた者を分限免職にすることは常に処分権者の裁量の範囲内にあるわけではなく、この意味において、別紙五記載の依命例規(電職第一四九号)の規定も、禁錮以上の刑に処せられてなお身分存続される場合にとるべき手続を、運用面において明らかにしたにすぎないと解すべきである。
 たしかに、公社職員が禁錮以上の刑に処せられた場合は、公社の社会的信用を失墜し、公社職員にふさわしくない素質、性格の発現と認められる場合が多いであろうが、結局はこれを一つの徴表として、さらに、それら一連の行動、態様、背景、状況等の諸般の事情に照らして評価すべきことはもちろん、それら一連の行動、態度については相互に有機的に関連づけて評価すべく、その他当該職員の経歴や職務内容あるいは性格、社会環境等の一般的要素をも考慮して、これらの諸般の要素を総合的に検討し、当該職員に公社から排除しなければ業務運営が阻害されるような永続性のある属性が認められるか否かを判断すべきものである。
〔解雇-解雇事由-企業外非行〕
 以上の諸事実を総合してみると、原告をこのまま公社内にとどめておくと、公社に対する社会的信用が失われ、公社業務の適正かつ能率的な運営が阻害され、あるいは阻害される蓋然性が極めて高いものというべく、原告が公社職員にふさわしくないとして企業外に排除されるのも止むを得ないところであつて、被告が原告に対してなした本件免職処分は合理性があり、有効である。