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ID番号 03523
事件名 懲戒処分無効確認請求事件
いわゆる事件名 国労大阪地本事件
争点
事案概要  春闘にさいして国鉄駅構内に許可なく組合旗を掲揚したのに対し、これを撤去しようとした助役の手をつかんだりして妨害したことを理由とする戒告処分が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1974年5月31日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ワ) 1381 
裁判結果 一部認容・棄却(確定)
出典 時報754号92頁/タイムズ322号254頁
審級関係
評釈論文 三浦恵司・判例評論193号16頁/鏑木圭介・労働法律旬報871号54頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 わが国の労働組合はほとんどがいわゆる企業内組合の形態をとっているから、労働者あるいは労働組合が組合活動のために企業施設をある程度まで利用することはやむを得ないところであり、一方使用者においてこれを受忍すべき必要のある場合の存することは否めないところであって、このことは被告の場合についても同様である。現に、本件基準規程は、前記のとおり組合事務所等の供与のほか、被告の所属長らが、正規の組合活動のために被告の構内等を組合に一時利用させる場合のあることを定めているが(一六条、一九条、二〇条)、右はまさに上述した理由に基づくものであるといわなければならない。のみならず、右組合活動のなかでもことに組合旗の掲揚は、通常一般に、組合員の団結を維持、高揚するための基本的な手段として行なわれるものであることが明らかであるから、企業施設内でのかかる組合旗掲揚行為の組合活動としての正当性の有無を判断するについては、わが国における右組合活動の実態等に照らし、単に右組合旗の掲揚が使用者の有する施設管理権によって制限もしくは禁止されているという一事からだけではなく、当該組合旗掲揚の目的、態様、本数、場所、および組合旗の掲揚によって使用者の受ける支障の程度等の具体的諸事情を総合勘案して決すべきものと解するのが相当である。もとより、かかる組合旗の掲揚される施設そのものが営造物として前記公共性を有する本件のような場合においては、右判断にあたりこの点の考慮も省き得ないものといわなければならない。
 (中略)
 原告X1は、前記のとおり同助役の手をつかんだり、またこれを払いのけたりなどして、他の組合員とともに約二〇分間にわたり右撤去行為を妨害し、同助役らをして右組合旗の右撤去を断念せしめたものであって、同原告がこのようにいわば有形力を行使して右撤去を妨害したことは、それ自体行過ぎというほかはないから、これを目して正当な組合活動の範囲を逸脱するものでないとはにわかに断ずることができない。
 (中略)
 本件の場合には、同原告が前記組合旗を掲揚した場所は、右のように車掌区庁舎建物内ではあるが、《証拠略》によれば、右組合旗の掲揚された前記京橋車掌区庁舎二階テラス付近は乗務員の執務の場所ではなく、その休養室、詰所等であったこと、および右テラス部分は、国鉄片町線京橋駅ホームの西半分の部分と、その間に線路三本(片町行列車線路一本を含む)を隔てて南北に相対する位置にあり、またその東側を南北に走る国鉄環状線の京橋駅ホームとは、その間に同駅駅舎等を挟んで少なくとも数十メートルの距離、間隔があることが認められるから、右組合旗の掲揚によって被告の職員の執務上、あるいは列車運行上別段支障あるいは妨害を生じ得る状況にはなく、また乗降客に対しとくに目ざわりとなるような状況にもなかったものというべきである。のみならず《証拠略》によれば、もともと前記分会には組合事務所もなかったところ、右分会が従来組合活動のために前記組合旗を掲揚する場合には、右庁舎建物前の空地の木にこれをくくりつけていたのであるが、昭和四〇年ごろ右庁舎が拡張され右空地がなくなったため、右組合旗掲揚の場所として右庁舎建物を利用するようになったものであることが認められる。
 以上の認定事実に、前記のとおり前記昭和四五年四月一四日原告X2が掲揚した組合旗は一本にすぎず、しかも同日夕刻ごろ撤去されたこと、および右組合旗の掲揚により別段右庁舎建物が損傷を受けた形跡も見当らないことを合せ考慮すれば、前記説示に照らし同原告の右組合旗の掲揚行為は、前記のとおり本件基準規程に抵触するが、いまだ正当な組合活動の範囲を逸脱していないものとみるのが相当である。
 (中略)
 右自転車置場の南側一帯には、前記加古川車掌区庁舎があるほか、国鉄宿舎が散在し、加古川駅およびその付近を通過する山陽本線等の線路とは、近いところでも数十メートルの距離、間隔があり、したがって、右組合旗の掲揚によって直接加古川駅付近を通過する山陽本線等の列車の運行を妨害し、あるいは乗降客等の目ざわりになるというような状況にはなかったことが認められる。
 以上の認定事実に、前記のとおり原告らの掲揚した組合旗が一本にすぎなかったことを合せ考慮すれば、右原告らの右組合旗掲揚行為は、本件基準規程に抵触するが、前記説示に照らしいまだ正当な組合活動の範囲を逸脱するものではないとみるべきである。