全 情 報

ID番号 03526
事件名 懲戒処分取消請求事件
いわゆる事件名 全逓東北地方本部事件
争点
事案概要  賃上げを要求する全逓のストライキは公労法一七条違反であり、ビラ貼りや無許可集会等も正当な組合活動とはいえないが、右を指導した地本委員長に対する懲戒免職処分は裁量権の範囲を逸脱しているとして取消された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
公共企業体等労働関係法17条
国家公務員法82条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1974年7月1日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (行ウ) 42 
裁判結果 (控訴)
出典 訟務月報20巻10号74頁
審級関係 上告審/01833/最高三小/昭53. 7.18/昭和51年(行ツ)7号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 原告の勤務すべき郵政業務は、多かれ少かれ、また直接と間接の相違はあつても、等しく国民生活全体の利益と密接な関連を有し、その業務の停廃は国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらし、社会公共にきわめて大きな影響を与えるおそれがあるものであるところ、本件各ストライキは、酒田局において五三分間、横手局においては五二分間、仙台局においては四六分ないし四時間四六分の各欠務行為を行なつたものであつて、その及ぼした影響は、前示認定のとおり軽視すべきでなく、右は争議行為の正当性の限界を超えたものであつて、公労法一七条一項の禁止規定に違反して行なわれた違法な争議行為であるというべきである。従つて、原告の右各行為は、いずれも国公法九八条一項、一〇一条一項、九九条に違反し、同法八二条各号に該当するものといわれなければならない。
 2 仙台郵政局関係について
 (1) 四月一五日および同月二二日のビラ(ステツカー)貼付行為について
 ビラ(ステツカー)貼付行為は、団結権保障の具体的内容として法的に尊重されるべきであることは当然のことであるが、郵政当局の有する施設管理権を不当に侵害することは許されないところというべきであり、本件についてみるに、前示認定のとおり、原告は、全逓宮城地区本部役員らと共謀して本件行為をなしたものであつて、その貼付場所は、いずれも仙台郵政局庁舎内の広範にわたり、その枚数も多数であること、その態様も同局管理者らの制止行為を全く無視して行なわれたこと等の諸事情を考慮すると、同局の維持、管理上特別に支障をきたしたものというべく、原告らの右行為は、組合活動としての相当性の範囲を逸脱し違法なものというべきである。従つて、原告の右行為は、国公法九九条に違反し、同法八二条一号および三号に該当するものといわなければならない。
 (中略)
 本件につきこれを見るに、前記認定した事実に徴すると、原告のなした本件違反行為の程度は軽視することはできず、原告の責任は重大であるといわざるを得ない。しかし、他方、本件ストライキの中心目的は賃金引上げ等の経済的要求であり、右ストライキも特に暴力行為等は発生せず、酒田局および横手局における各ストライキについてみれば、現実には業務に対する大きな混乱は生じなかつたこと、横手局におけるストライキについては、東北地本書記長A、仙台局における半日ストライキについては、全逓中央執行委員Bのそれぞれ直接指導のもとにストライキが実施されたものであり、右各ストライキにつき、原告の指導性はさ程顕著ではなかつたこと、仙台郵政局における二回にわたるステツカー貼付行為の実施を決定し実行したのは、主として全逓宮城地区本部(四月二二日のステツカー貼付については全逓中央執行委員Cが指示をしている。)であつて、原告の指導性が顕著であるとは認められず、原告は、せいぜい右地区本部役員らと意思連絡のあつた程度に止まること、その他仙台郵政局における集団交渉要求行為、集団示威行動等は、行き過ぎの点があつたけれども特に暴力行為等は発生しなかつたこと(証拠省略)によれば、今次春闘で全逓組合員のうち約三、六〇〇名が処分を受け、全逓中央執行委員についてみれば、D(企画部長-組織の維持、運動・闘争全体の計画立案とその指導担当)E(前述のとおり仙台局におけるストライキ指導責任者)等一一名(いずれも四月二三日実施された半日ストライキにつき全国各拠点局における指導責任者)が公労法一八条による解雇処分に付されたに止まることが認められ、これに反する証拠はない。また、(証拠省略)によれば、今次春闘に際し、東北地本傘下で実施されたとほぼ同程度のストライキ、集団示威行動、ビラ貼り活動等が全国各地方本部傘下においても実施され、その指導責任を問われた各地方本部執行委員長の処分(但し、処分説明書によれば、処分事由はいずれもストライキ実施についてのみであつて、原告の如くその他のビラ貼り行為、集団示威行動等につき処分事由として記載されていない。)をみるに、懲戒免職となつたのは原告のみであつて他の右各地本委員長(但し、東海地本執行委員長Fは、昭和三五年二月六日以降起訴休職中につき処分がなかつた。)らは、いずれも最も重くて停職一年(関東地本執行委員長G、近畿地本執行委員長H、四国地本執行委員長I)であり、最も軽くて停職九月(北海道地本執行委員長J)であり、その他は停職一〇月(信越地本執行委員長K、北陸地本執行委員長L、中国地本執行委員長M、九州地本執行委員長N)に止まつていること、右各地本委員長の過去の処分歴をみても原告との間にはほとんど差異がない(関東地本委員長は、停職八回、北陸地本委員長は停職七回、減給一回、九州地本委員長は停職七回、減給一回であつて、原告の停職七回に比しいずれも処分歴が多い。)ことが認められ、これに反する証拠はない。右に述べたような諸事情を総合して考えると(証拠省略)によれば第三被告主張の二、2(三)(1)【2】(編注・二2中の編注参照)の事実(但し、「八回にわたり」とあるは「一〇四にわたり」と認める)を認めることができ、(証拠省略)によれば同【3】(編注・二2中の編注参照)の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はないけれども、原告につき例えかかる事情を考慮に入れるとしても、被告が原告に対し本件処分を選択した判断は合理性を欠くものと断ずるほかはなく、本件処分は裁量の範囲をこえた違法なものというべきである。