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ID番号 03615
事件名 雇用関係確認事件/賃金支払等請求事件
いわゆる事件名 大日本印刷事件
争点
事案概要  大学四年在学中の者が会社の筆記試験、面接、健康診断を受けた後、採用内定通知を受け、誓約書を提出したにもかかわらず、翌年になってグルーミーであるという理由で右採用内定を取消された事件で従業員たる地位確認の請求を行った事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 採用内定 / 法的性質
労働契約(民事) / 採用内定 / 取消し
裁判年月日 1972年3月29日
裁判所名 大津地
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (ワ) 84 
裁判結果 一部認容
出典 労働民例集23巻2号129頁/時報664号18頁/タイムズ275号182頁
審級関係 上告審/00173/最高二小/昭54. 7.20/昭和52年(オ)94号
評釈論文 下井隆史・労働法の判例〔ジュリスト増刊〕31頁/山口浩一郎・判例タイムズ279号99頁/松岡浩・法学研究〔慶応大学〕45巻8号109頁/瀬元美知男・ジュリスト531号109頁/西川美数ほか・労働判例149号4頁/木村五郎・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕26頁
判決理由 〔労働契約-採用内定-法的性質〕
 以上説示の各事実を合わせ考えてみると、本件においては、被告から原告に対する採用内定の通知をなし、原告から被告に対し誓約書を提出した段階において、将来の一定の時期(入社日・原告の大学卒業後で昭和四四年三月末日頃が予定されている)に、互に何ら特別の意思表示を要することなく、原被告間に試傭労働契約を成立させるとの合意、いわば採用内定契約ともいうべき一種の無名契約(以下便宜上、採用内定契約という。)が成立したものと解するのが相当である。
 もつとも、採用内定の段階においては、その基礎にある将来の試傭労働契約の内容、労働条件等については、不確定の要素の多いことは否定しえないけれども、そもそも労働契約そのものがいわゆる附合契約たる性質を有するものであり、労働者は使用者の定めた契約内容、労働条件に従つて労務を提供することを約する性格のものであるから、採用内定の段階で、以上のことが若干不明確であるからといつて、右のような契約の成立を否定する論拠とはなし難い。
〔労働契約-採用内定-取消し〕
 昭和四四年二月一二日、被告は採用内定契約を取消した。採用内定契約が採用内定の取消ということを当初から予定していたものではあるが、その取消は当然に契約の失効を招くものであるから、取消が何らの制約もなく全く自由にできるとするときは、契約はその意味を失うことになる。その取消は、採用内定契約の性質、目的からして何らかの合理的理由に基づくことを要することは、理の当然である。
 (中略)
 他に、被告が原告に対する採用内定を取消した合理的な理由は、これを発見することができないから、被告は取消すべき理由なくして右採用内定を取消したものであり、その取消の意思表示は効力を生じないものと断ぜざるをえない。
 そうすると、前記採用内定契約に基づいて、被告会社の昭和四四年度新入社員の入社式の行なわれた同年三月三一日頃に、原告と被告との間に労働契約(ただし試傭労働契約)が有効に成立し、遅くとも同年四月一日以降は、原告は被告会社の従業員(ただし、試傭者)たる地位を取得したものというべきである。