全 情 報

ID番号 03629
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 名古屋汽船事件
争点
事案概要  三カ月の臨時雇契約を締結して乗船していた船員が期間満了により契約が終了したとされ、また、右の者が海員組合により組合加入を拒否された以上、ユニオンショップ協定により解雇するとされた事件で、地位確認を請求した事例。
参照法条 船員法38条
船員法42条
労働基準法2章
民法625条
労働基準法3章
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇
解雇(民事) / 解雇権の濫用
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / ユニオンショップ協定による解雇と賃金請求権
裁判年月日 1972年5月31日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (ワ) 3389 
裁判結果 認容
出典 タイムズ289号257頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-試用期間-法的性質〕
〔労働契約-試用期間-本採用拒否・解雇〕
 本件についてみるに、契約書には「雇用期間乗船後三カ月(変更も可)」と記載されているのであるから、契約文言上からは雇用期間は三カ月に限定されており、右期限を変更するかどうかは被告の裁量に委ねられていると解釈できるから、右契約文言からすれば被告主張のとおり臨時雇契約であると見ることが可能である。
 しかしながら、先に認定したとおり、「変更も可」なる文言は、臨時雇では困るとの原告の要請により付加されたものであること。原告はA船に乗船するに際し、一航海終了後は、B船またはA船に転船し、引き続き乗船勤務するよう被告から告げられていたこと、差遣状には本員採用予定者であることが明記されていること、ならびに臨時雇については就業規則上明文の規定なく、期限付で雇用されても二、三カ月で成績不良者でない限り特段の登用手続を要せず本雇として引き続き雇用されるのが通例とされていたこと等の諸事実からすれば、本件雇用契約は、確かに三カ月という期限付ではあるけれども、右契約締結に際し、期限満了後は、成績不良等の特別事情なき限り本雇に採用する旨の合意が原、被告間に成立していたと推認するのが相当である。
 従つて、本件雇用契約における三カ月の期間は、実質上試用期間の性質を有することになるから、法的に言えば、右雇用契約は試用雇契約と解すべきである。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 本件雇用契約が臨時雇契約であることを前提とし、三カ月の臨時雇契約の期間満了のみを理由とする本件解雇はもとより適正な解約権の行使とは言えないから解雇事由を欠き解雇権の濫用として無効というべきであり、原告は昭和三六年五月二三日(A船乗船の日)から起算して三カ月経過した同年八月二三日に本雇となつたものと認めるべきである。
 (中略)
 期限の定めのない雇入契約につき、船舶所有者は書面を以て右予告をすればいかなる場合でも自由に船員を雇止できるものではなく、それが権利の濫用にわたる場合は無効といわなければならない。
 これを本件についてみるに、先に認定した本件雇入契約解除および解雇に至るまでの経緯に徴すると、本件雇入契約の解除は、本件解雇をなすためその前提としてなされたものであることは明らかであり、本件解雇が権利の濫用として無効である以上、本件雇入契約の解除は実体上からしても権利の濫用として無効というべきである。
〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
〔賃金-賃金請求権の発生-ユニオンショップ協定による解雇と賃金請求権〕
 被告は本件各解雇が有効であるとして原告の就労を拒否しているから、原告は民法第五三六条二項により本件解雇時以降も賃金債権を有することは明らかである。
 (一) 前記のとおり本件雇入契約の解除は、無効なのであるから、原告に対しては、乗船中の基準内、基準外賃金である本給、手当および一時金が支給されなければならないことになる。