全 情 報

ID番号 03632
事件名 出向命令効力停止仮処分申請事件
いわゆる事件名 新学社教友館事件
争点
事案概要  出版会社で編集業務に従事していた社員が販売部門を分離独立させた新会社に出向を命ぜられ、一応この新会社で就労しながら右出向命令の効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転・出向・転籍・派遣と争訟
裁判年月日 1972年6月23日
裁判所名 京都地
裁判形式 決定
事件番号 昭和47年 (ヨ) 234 
裁判結果 却下(確定)
出典 時報682号80頁/タイムズ285号311頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転・出向・転籍・派遣と争訟〕
 ところで本件において申請人は、販売会社における職務の内容、勤務場所及び労働時間等の労働条件が、被申請人会社の編集部におけるそれとは著しく異なるので、申請人が販売会社においてこのまま勤務を続けるとするならば、回復することのできない重大な不利益を蒙るにいたるから、仮処分の必要性があると主張する。しかして申請人が右にいう重大な不利益とは、具体的に何を指称するのか定かではないけれども、申請人にとっては、労務を提供する相手方が被申請人会社から販売会社に変ったばかりでなく、先に認定した教科書類の編集と、その出張販売は、前者が頭脳的要素を主軸とする企画的業務であるのに対し、後者が取引的要素を主軸とする開拓的業務である点において両者その性質、内容を異にし、それにともなって必然的に労働条件を異にすることは否定し難いから、自ら希望した被申請人会社社屋内における編集のみの経験を有するにすぎない申請人にとって、販売会社における広汎な地域に及ぶ出張販売の業務にたづさわることには、精神的、肉体的な苦痛をともなうであろうことは推認するに難くない。しかしながら先に認定した被申請人会社と販売会社との設立及び人事、経営面における有機的関連に関する事実を考慮すれば、勤務先が変更したこと自体によって申請人が回復し難い不利益を受けたと認めることはできず、また本件記録を精査検討しても、申請人のいわゆる精神的、肉体的苦痛が、編集から販売業務への転属によって生ずる労働条件ないしは労働環境の変化に、一般的、必然的にともなう範囲(この範囲内にあるものは、なにびとといえども転属によってその負担を余儀なくされる)を超える現状にあると認めることはできないし、また現在の出張販売の職務内容が、申請人に対し、その経歴、経験からみて被傭者としての立場を無視し、または無視するにひとしい結果をもたらすものと認めることもできないうえ、職務内容の変更によって申請人の個人的生活が侵犯された(たとえば妻子、老父母との別居等)ものとも認められないから、申請人に生ずる精神的、肉体的苦痛はこれをもって現に仮処分をしておかなければ将来回復しがたい程に重大な不利益と認めることはできない。
 次に本件記録中の疎明資料によれば、被申請人会社の就業規則、賃金規則、退職金規程その他労働条件に関する諸規程は、すべて販売会社及びその従業員に適用実施され、退職金及び退職年金支給の基礎となる勤続年数は相互通算され、また各種の社会保険に関する事項、更には親睦会等の福利厚生の点においても、販売会社の従業員は、被申請人会社の従業員として取扱われていること及び現に申請人も販売会社において右の取扱に準拠して処遇されていることが認められるから、経済的並びに福利厚生的側面からみても、また申請人が回復し難い重大な不利益を受けているものと認めることはできない。