全 情 報

ID番号 03640
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 荏原製作所事件
争点
事案概要  現に東京大学に在学しており他社で懲戒解雇されたことがありながらこれを秘匿し単に高校卒であるとして採用された者が経歴詐称を理由に懲戒解雇され、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法3条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称
労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
裁判年月日 1972年7月20日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ヨ) 2401 
裁判結果 却下(確定)
出典 時報677号100頁
審級関係
評釈論文 三島宗彦・季刊労働法86号98頁/渡辺裕・ジュリスト527号153頁
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕
 使用者が労働者を採用するに際し特にその経歴を重視する理由は、「企業は人なり」という言葉もあるように労働者の労働力と人格とが密接な関係にあるため、使用者において労働者の労働力に対する評価ばかりでなく、その全人格すなわち知能、教育程度、経験、性行、誠実さ等に対する評価をも必要であると判断し、もって労使間の信頼関係の設定や企業秩序の維持、安定に役立たせようとするためである。したがって、労働者が経歴を詐称することは、その者の労働力および全人格に対する使用者の評価を誤らせあるいは誤らせる危険をもたらすものであって、労働者の不信義性を示し、労使間の信頼関係、企業秩序の維持、安定に重大な影響を与えることになるのである。このような見地から考えると、申請人が国立A大学に在籍していることを秘して最終学歴を市立B高等学校卒業と申告したこと、C会社を懲戒解雇されていることを秘したことおよび職歴として同社に勤務したことが申告されていないほか、申請人が申告したD会社に勤務したことも、田舎に帰って家業を手伝っていたこともなかったことの虚偽申告は、申請人の労働力および全人格に対する被申請人の評価を誤らせるものであって、被申請人においてこれを重視することはもっともである。このことと、前段に認定した被申請会社羽田工場における現業職採用の方針とをあわせ考えると、申請人の経歴に関する虚偽申告は、就業規則第八四条三号に懲戒解雇事由として定めた「重要な経歴」に関する詐称に該当するものというべく、そのため懲戒解雇に付されてもやむを得ないといわざるを得ない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕
 右認定した事実および申請人の経歴詐称の重大性に照らして考えると、本件解雇の原因は申請人が経歴詐称によって被申請会社に入社したことにあるのであって、申請人の思想、信条を理由とするものではないと認められる。