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ID番号 03704
事件名 懲戒処分取消請求事件
いわゆる事件名 山口県教育委員会事件
争点
事案概要  公立中学校教諭が、全国中学校学力調査実施後、勤務時間中に生徒に右調査の感想文を書かせ、文集に集録し、教職員組合会議に配布したことを理由とする減給処分につき、右はなお教育活動に属するとして右処分が違法とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
地方公務員法35条
地方公務員法33条
地方公務員法32条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1971年10月21日
裁判所名 山口地
裁判形式 判決
事件番号 昭和41年 (行ウ) 1 
裁判結果
出典 行裁例集22巻10号1661頁/時報661号82頁
審級関係 控訴審/広島高/昭51. 4.19/昭和46年(行コ)12号
評釈論文 奥平康弘・季刊教育法5号88頁/国井成一・自治研究50巻4号142頁/青木宗也・教育判例百選230頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 しかし、本件文集作成前後の経緯についてみても、原告Xらにおいて、学力テスト反対斗争に有利な感想文を導くような事前指導等が行なわれたと認めるべき証拠は存在しないし、本件文集が前記総括会議の席上出席組合員に配布された後、原告Xらによりこれが不当に取扱われたことを認うめる証拠もないのみならず、前認定のごとく本件文集に集録された感想文は必ずしも学力テストに反対する意見、感想を述べたものばかりではなく、むしろその半数以上が前記テスト当日の出来事についての素朴な気持を述べたものであつて生徒の日常の生活体験に関する感想文と同質であること、また、学力テストを批判する感想文も、生徒の理解の範囲内で不自然さのない卑近な理由を挙げているのがほとんどであつて、教員に対することさらな追従や単純な同調によるものではないとみられることなど本件文集の構成および内容をも併せ考えると、原告Xらとしては、同僚の組合員である他校の教職員らに対し、自校の生徒が学力テストについて感じまたは体験した実状を紹介し、教員として当面大きな教育上の関心事であつた学力調査の研究討議あるいは参考の資料に供したとみるのが自然であり、従つて教育上の資料たる性質を逸脱するものではないとみるべきである。(なお、この点に関連し、右のような感想文の内容に照らしてみるときは、本件文集の表紙にある「学力テストのたたかいの記録」との一種の副題は必ずしもふさわしいものではない。そこに集録されている感想文の作者たる生徒がすべて右のたたかいの意味を原告Xらと同様の意味で自覚していたかは疑わしく、生徒としては右の表現をむしろ望まないものもあると考えられる。従つて、文集の内容が素朴で自律的なものとみられるだけに、これに対する評価を伴う表題の記載にあたつては、教職員としての慎重な配慮が望まれる。また、感想文の見出しの選び方についても、生徒としては、見出しの形でことさら強調されることを好まないものがあるやも知れず、安易に取扱うことにより感想文の真の価値を失う危険があることを配慮すべきである。しかし、右の表題等の表現が妥当を欠くことのみをもつては、前記判断に消長を及ぼすものではない。)
 してみると、本件において原告らが生徒に感想文を書かせた行為は、教職員としての職務活動であつて、そのことを事前に組合会議で相談し、原告竹原については、事後の文集に集録し配布した各一連の行為との関連においてみたとしても、これを組合活動とみることはできないから、原告らの右行為は地方公務員法三五条に違反するものとは言えない。
 (中略)
 本件処分の対象となつた原告らの行為に関する記事が本件文集の内容の一部と共に新聞紙上に掲載され、その後山口県議会で議員の中から原告らに対する非難の意見が出されたことは前記のとおりである。そして、右の事態に至つた経路は必ずしも明らかではないが、原告らの行為が前項で述べた各理由により教育活動の域を逸脱するものとは言えない以上、これがたまたま世間に公表され、しかもその際、たとえ教員としての、あるいは教育のありかたを疑わせるような評価を与えられた形で世間に広がり、また、非難の対象となつたとしても、かかる結果は、右のような評価を与えられたことに基因するものであつて、これにより原告らの行為の本質に影響を及ぼすものではないから、原告らが地方公務員法三三条に違反して教職員の信用を傷つけあるいは教職員全体の不名誉となる行為をしたとなし得ないことは明らかである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 原告らの行為が地方公務員法三二条に違反するとの被告の主張は、要するに、原告らが学力調査の実施に反対して、文部省および教育委員会の定める方針に従わず、学力調査実施に関する校長の職務命令に反抗し、本務である生徒の教育に専念すべき教育時間を利用して学力テスト反対斗争の目的で生徒に作文を書かせたことが右法条に違反する、というにあるものと解されるが、同条は、職員の職務遂行にあたつて法令、条例、地方公共団体の規則および地方公共団体の機関の定める規程ならびに上司の職務上の命令に従うべき一般的義務を規定したものにすぎず、本件において、原告らの行為が教育に専念すべき義務に反するものでなく、また、信用を失墜する行為にもあたらないことは先に述べたとおりであり(被告が挙げている学校教育法二八条四項、四〇条は、前記地方公務員法三五条が教諭に適用される場合の前提としての意味をもつのみである。)、また、右行為が学力調査の実施に関する校長の職務命令自体の違反行為でないことはもちろんであつて、その他右行為が具体的にいかなる法令、規則等に違反するかの点につき何ら明らかに主張されていないから、被告の右主張は採用することができない。
 六、以上のとおり、本件処分の対象となつた原告らの各行為は、いずれも被告の主張する前記各法条違反の事実を構成するものではないから、学力調査自体の当否を判断するまでもなく、右法条違反を理由とする本件処分は違法である。