全 情 報

ID番号 03705
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 東洋埠頭事件
争点
事案概要  技術系職員に対する川崎支店から新潟支店への転勤命令につき、長期にわたり同一職種、同一支店に勤務していたとしても、それにより職種と勤務地が特定されたとはいえず、本人の同意がなくても右転勤命令をなしうるとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
裁判年月日 1971年10月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ヨ) 2214 
裁判結果
出典 労働民例集22巻5号940頁
審級関係
評釈論文 佐藤進・ジュリスト519号111頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 三 次に申請人の職種と就労場所を変更することになる本件転勤命令は、申請人と被申請人との間の労働契約上許されないものであるとの主張について検討する。
 申請人が入社以来、約一七年間引続き川崎支店に勤務し、その間橋型起重機運転等の業務に従事してきたことは当事者間に争いがないが、前示乙第一四号証、成立に争いのない乙第一号証、第三号証の一の各記載、証人Aの証言および申請人本人尋問の結果によれば、次の事実が一応認められる。
 (一) 被申請人の従業員は、社員、嘱託、現務員、臨時員に分れているが、社員と嘱託は、採用手続および試験が本社で行われるか支店で行われるかを問わず、その採用はすべて社長決裁により、交付される採用辞令には、「従業員に採用する。事務職補助何級、あるいは作業職(技術系をいう。)補助何級」と記載されている。その後の一切の人事管理は、本社総務部人事課において、全社員、嘱託のものを集中して行つている。
 これに対し現務員は、定期採用はなく、すべて増員または欠員補充の必要が生じた都度募集し、募集、選考は支店ごとに行われ、採用は支店長の決裁により、採用辞令も交付されない。以後退職までその一切の人事管理も支店が行い、支店間の転勤はない。
 (二) 監視、乗用車運転手、電話交換手、タイピスト等の場合は職種を指定して募集、採用しているが、その他の従業員については、一般事務職員と一般技術職員の区別があるだけで、その中でさらに具体的な職種の限定をして採用することはしていない。
 (三) 工業高校電気科または機械科を卒業して一般技術者として採用された者についても、すべて橋型起重機の運転関係に配属するとは限らず、最初から機械諸施設の保全検査等を業務とする工務課等に配置される例もある。
 またクレーン運転士の資格取得後であつても、橋型起重機の運転に適性のない場合とか、健康上その他の理由で、一方的に工務課、サイロ課など橋型起重機に関係のない職場に転換された例もある。申請人が運転課から工務課に移つた際にも、事前に格別申請人の同意を得てはいない。
 なおクレーン運転士から、クレーン以外の技術関係の仕事に変更された場合に、組合が職種の一方的変更はできないとし、団体交渉あるいは抗議を申込んだ事例は過去に全くない。
 (四) 技術系社員は、被申請人の職能分類制度では、作業職層および特別作業職層に属しているが、高校卒業直後の新採用者は作業職補助二級に格付けされ、平均して二年後には作業職二級となり、次いで平均三年後には作業職三級に、さらに平均五年後には作業職四級に、続く平均六年後に特別作業職一級に進み、以後それぞれ平均一、二年を経て特別作業職二級に、次いで管理職一級に昇進する。すなわち、特別作業職一、二級は、管理職に進級する直前のいわば準管理職に相当し、右のとおり高卒後一五年以上の職務経験を経ている。
 申請人は右の特別作業職一級に該当しており、標準的な場合には今後三年程度で管理職一級に昇進し得る地位にある。
 (五) 申請人の入社した昭和二八年当時すでに、被申請人の支店として、川崎、大阪、博多、新潟、豊洲があつた。そして現在までに、従業員の同意を得ずに、他支店への転勤を命ずる例は数多い。
 (六) 被申請人の就業規則六〇条には、被申請人主張のような規定がある。
 右のような被申請人における採用、その後の職種あるいは職場の変更、転勤の実情と昇進の一般的過程および申請人がその過程上到達している地位に鑑みれば、申請人の職種が橋型起重機関係の技術者というふうに黙示的にもせよ定められたとは到底考えられず、また申請人の職務は現地採用の工員、作業員あるいはこれに類するものとは程遠い実態にあるから、就労場所についての申請人の主張も採用の限りではない。
 申請人の場合、同一職種、同一支店での勤務が、事実上長期にわたつたというに過ぎないというべきである。
 要するに職種および就労場所について申請人主張のような事項が申請人、被申請人間の雇傭契約の内容となつていたものと認め得る疎明資料はない。従つて、申請人主張のような事項が右雇傭契約の内容となつていたことを前提とする申請人の前記主張は失当である。