全 情 報

ID番号 03710
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 湘南女子学園事件
争点
事案概要  私立学校における生徒減少にともなう人員整理につき、その必要性、動機、手続において権利行使の範囲を逸脱したものであり、信義則に反し、権利濫用として無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条2項
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
裁判年月日 1971年12月14日
裁判所名 横浜地横須賀支
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ヨ) 63 
裁判結果 認容
出典 タイムズ282号252頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 1 先ず、学校法人の会計方法は、従来、学校法人会計の原則に従つて会計の処理が行われ、且つ計算書類が作成されてきたのであるが、経営困難を理由とする人員整理解雇の効力が争われている本件に於ては、人員整理の前提として、学園の企業的則面が検討の対象とされねばならないから、学校法人会計の原則のみでは不充分であり、一般企業会計の原則に基いて学園の経理内容と財産状態が把握されねばならない。而して、前認定の事実によると、学園の経理状況は、企業会計の原則に照してみるとき、昭和三八年度以降本件解雇が行われた昭和四四年度迄の七年間、毎年黒字経営である許りか、合計二〇八、〇六八、九九〇円の純益を挙げており、学園の所有する不動産の再評価益及び固定資産の減価償却による必要経費を含ましめなくても、昭和四四年度末に於ける学園の正味財産は三五〇、八三八、五四一円で創業時より約三億五〇〇〇万円の増加と計上されるのであるから、学園の右財産状態と、人員整理によつて削減し得る人件費とを比較するとき、にわかに人員整理の必要性を肯定することが出来ない。加えて、学園は生徒数の減少して来た昭和四一年度以降に於ても多額設備投資を行つている上に、今後、昭和四九年頃迄は生徒数の増加を期待し得ないが、その後再び大量の増加が予測され、学園の経営努力如何によつては、従前の水準に復活する可能性が存在するのであるから、人員整理の必要性は尚更薄いと言わねばならない。仮に、近い将来、生徒数の減少が継続し、学園の経理状況が赤字になる事態が予想されるとしても、それらは専ら学園の経営者の長期計画を誤つたことに起因すると解する外はないので、赤字経営が発生する以前に先制的に教員の人員整理を行うのは妥当でなく、更に、学園が一旦取得した自己の財産には一指だに触れず、その財産取得のために寄与したと推認すべき教員にのみ犠牲を強いるのは、法律上並びに道義上問題であると考えられる。従つて、人員整理の必要性は認められないと解するのを相当とする。
 (中略)
 4 之を要するに、本件解雇は、その必要性に於いて、またその動機に於て、更にその実施手続に於て、権利行使の範囲を逸脱したものであり、労使間の根本原則である信義則に違反するから、解雇権の濫用としてすべて無効であると解すべく、その結果申請人等は、爾余の争点に対する判断をまつ迄もなく、従前通り学園の教員としての地位を有することになる。