全 情 報

ID番号 03796
事件名 破産債権確定請求事件
いわゆる事件名 中山恒三郎商店事件
争点
事案概要  社内預金返還請求権につき商法二九五条の適用の有無が争われた事例。
参照法条 労働基準法18条
体系項目 労働契約(民事) / 強制貯金・社内預金
裁判年月日 1986年11月27日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (ワ) 2614 
裁判結果 控訴
出典 労働民例集37巻6号465頁/金融法務1198号28頁
審級関係 控訴審/03103/東京高/昭62.10.27/昭和62年(ネ)110号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-強制貯金・社内預金〕
 ところで、社内預金債権は法形式のうえでは消費寄託契約上の債権というべきであって、右は雇用契約を契機とはしているものの、必ずしも雇用契約に基づくものとはいい難い。しかしながら、商法二九五条が労働者の保護という見地も含め必ずしも雇用契約に基づくといえない身元保証金の返還請求権をもかかげてその保護を図っている趣旨に鑑みれば、社内預金債権についても預入れの経緯、態様等を検討し、更に一般債権者の利益とも対比したうえで商法二九五条の適用を判断すべきものというべきである。
 (中略)
 しかして、訴外会社が四月三〇日に支給されるべき臨時賞与を直接従業員に交付せず同日付で全額を各人の社内預金口座に入金した形で処理をしていたのは、証人Aの証言によれば、訴外会社の決算日が四月三〇日である関係上、臨時賞与を支払えなくとも経理帳簿上これを支払ったこととし社内預金化することでその期の決算の損金にすることを企図した便法であったことが認められるから、原告らの社内預金債権のうち臨時賞与の組入れ部分はそれ自体原告らの任意の預入れとは異なるもので、この部分の返還を求めることは実質的には未払いの臨時賞与の支払いを訴外会社へ求めるものといえる。しかも右臨時賞与も訴外会社の就業規則に基づく債権であるので、この部分に関する社内預金債権は商法二九五条の対象となる債権と認めるのが相当である。また、訴外会社が原告X1、同X2及び同X3の退職金を社内預金に組入れる処理をなしたことについても、原告X4本人尋問の結果によれば、訴外会社の資金面で現実に退職金を支給し得る状況になかったものであり、かような処理がなされることについてあらかじめ右各原告の同意を得てはいないことが認められるから、この形態の社内預金も原告らの任意の預入れによるものとは異なり、その返還を求めることも、実質的には退職金の支払いを訴外会社に求めるのと等しいものというべきである。しかして、証人Aの証言及び原告X4本人尋問の結果によれば、右原告三名の退職金はいずれも訴外会社の退職金規定に準拠した従業員たる地位に基づく退職金であることが認められるから、社内預金債権のうち右退職金組入れ部分も商法二九五条の対象となる債権と認めるのが相当である。
 ところが、原告X5及び同X6の社内預金にみられる社宅購入に関連して預入れられた預金部分は、いずれも他の預貯金等を解約するなどしたうえでこれを預入れたものであり、右預入れが社長の指示に基づくものであっても、右原告らにおいて訴外会社から社宅を購入するための手段としてその預入れがなされたものである以上、右は右原告らの任意の預入れというべく、また、雇用関係から直接生じた債権とは一応性質を異にするものであるから、法律上一般債権者と区別してこれらを特に保護すべき理由は見い出し難く、右は商法二九五条の対象とはなり得ない債権というべきである。したがって、原告X5及び同X6を除く各原告の社内預金債権はいずれも商法二九五条の対象となる債権といえるが、右原告両名の社内預金債権については同条の対象となる臨時賞与の組入れ部分と対象外の社宅購入関連の預入れ部分とが混在していることになる。