全 情 報

ID番号 03816
事件名 賃金支払等請求事件
いわゆる事件名 大阪府立高校警備員事件
争点
事案概要  大阪府と警備保障会社との間の委託契約に基づき警備業務に従事してきた警備保障会社従業員が、大阪府との間に使用従属関係があるとして、割増賃金等の支払を求めた事例。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法41条3号
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 委任・請負と労働契約
労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 監視・断続労働
裁判年月日 1989年2月20日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ワ) 2302 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集40巻1号158頁/タイムズ713号165頁/労働判例535号40頁/労経速報1358号3頁/判例地方自治61号14頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-委任・請負と労働契約〕
 2 原告らは本件契約書添付の仕様書が原告らの労務提供に対する被告府の指示命令であると主張するが、仕様書はあくまでA会社と被告府との間の契約内容にすぎず、この契約内容を具体的に実行するものはA会社であり、原告らはA会社の指示により警備業務に従事していたのであるから、仕様書により被告府が原告らの労務提供を指示命令していたということはできない。
 3 本件委託契約書の一二条及び一四条は、被告府のA会社に指示する権限を記載したものであるが、実際に配転する権限はA会社にあるから、被告府が原告らに対し人事権を有していたとはいえない。
 4 被告府と組合間において組合の希望により会合を行っていたが、これは被告府が原告らの使用者であることを認めたものではない。
 5 常駐警備員が学校職員等から仕様書に記載されていない仕事を依頼され、これを引き受けていた経緯は前認定のとおりであり、右依頼を警備員に対する指揮命令ということはできない。警備員に警備業務日誌や連絡ノートを記載させていたことが警備員に対する管理とはいえないことも前認定のとおりであり、そのほかに被告府又は学校側が警備員を指揮監督していたことを窺わせる事実は認められない。
 6 他方、警備員の学校内での仕事を実際に監視監督する者はおらず、夜間学校に居るのは警備員のみであること、A会社が警備員の募集採用、配置を行い、組合との間で賃金等労働条件を決定していたこと、警備に必要な器具及び設備についてはA会社の負担であったことも前認定のとおりである。
 7 以上検討のとおり、被告府と原告ら間に使用従属関係が存在したことを推認する事実は認められず、黙示という形であっても両者間に雇用契約の合意が成立していることを推認する事実の存在も認められない。
〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-監視・断続労働〕
 法四一条三号は、当該労働が監視又は断続的労働に該当するとの要件を備えた場合、行政官庁の許可により法第四章及び第六章の労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用を除外するものであるが、当該労働が右要件を満たさないにもかかわらず行政官庁の許可がなされた場合には、右諸規定の適用は除外されないと解される。原告らは、本件許可処分は右要件を欠くから無効であり、かつ、長期間取り消されなかったとして、被告国に対し国家賠償法に基づき損害賠償を請求しているところ、原告らの労働実態が監視又は断続的労働に該当しない場合には、本件許可処分の存在にもかかわらず、原告らはA会社に対し時間外労働に対する賃金請求権を有するものであるから、原告らは本件許可処分によって直ちに時間外労働に対する賃金相当の損害を蒙ったとはいえない。もっとも前認定のとおり、A会社は昭和五九年八月七日破産宣告を受け、同六〇年七月二三日破産手続廃止(残余財産なし)により消滅したため、原告らの同社に対する請求権の行使は不可能となり、原告らは右賃金相当の損害を蒙ったというのであるが、同社の破産及び破産手続廃止は本件許可処分と何ら関係のない出来事であるし、本件許可処分がなければ、原告らにおいて同社に対し右時間外労働に対する賃金を請求し、その支払いを受けえたという事情も認められないので、本件許可処分と原告らの右損害との間には相当因果関係が存するとは認められない。したがってその余の点について判断するまでもなく、原告らの被告国に対する請求は失当である。