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ID番号 03927
事件名 賃金仮払仮処分申請決定に対する抗告事件
いわゆる事件名 持田製薬事件
争点
事案概要  マーケッティング部長としてその能力を期待されて雇われた者が、その能力がないとして解雇された事例。
参照法条 労働基準法20条
労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
裁判年月日 1988年2月22日
裁判所名 東京高
裁判形式 決定
事件番号 昭和62年 (ラ) 587 
裁判結果 棄却
出典 労働判例517号63頁/労経速報1318号8頁
審級関係 一審/03081/東京地/昭62. 8.24/昭和62年(ヨ)2249号
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 記録によると、相手方会社では、A専務の下で抗告人に対し、当面の任務として、(一)薬粧品のマーケティング活動を行うこと、(二)各部間の意見、業務進捗状況の調整を行い、バランスのとれた積極的なマーケティングの実現をはかること、(三)マーケティング部員の指導育成につとめること、(四)部下の評定など人事労務の権限を行使することを指示し、殊に、一般消費者の需要動向に関する基礎的データーはマーケティングに不可欠であるから、その動向把握のため、訪問すべき得意先や卸先のリストを交付して特に実情調査を指示したにもかかわらず、全国一五六卸店中重点卸四〇店、販売員の定期訪問薬局五〇〇〇店のうち抗告人が訪問したものは一〇店余にすぎず、その他のマーケティング・リサーチのため自ら行動しあるいは部員に指示することもなかったし、相手方が要望したマーケティング部員に対するマーケティングに関する実践的教育・指導も実効が得られず薬粧事業部政策会議においても抗告人による具体的発言ないし提案は行われなかったこと、また、抗告人はマーケティングプランの策定をせず、薬粧の販売方法についても、相手方の指示ないし期待した具体的な提案をしないで会社内部の前近代的体質の改善が急務であるなど抽象的、仮説的意見が多く、昭和六〇年八月一九日の「薬粧マーケティングの基本方針」と題する抗告人の発表も、販売促進に関する具体的提案に乏しく相手方の期待を裏切るものであったこと、そのため社内には抗告人に対する批判が沸き起ったため相手方は抗告人に対し理論だけでなく実践活動に重きを置くよう指導したが反省の態度が見られなかったこと、昭和六〇年一二月一六日抗告人から相手方B人事部長に対し唐突に近く施行される参議院議員選挙にサラリーマン新党から社員の身分のまま立候補することが可能か、その際政治資金として二〇〇〇万円の寄付ができないかなどと申し入れ、その後、相手方に対し何らの了解のないまま昭和六一年二月一八日の新聞に抗告人がサラリーマン新党の参議院議員比例代表区候補予定者として発表されたため、相手方としては右は職務専念義務違背であり、も早抗告人との信頼関係の維持は困難であるとして抗告人の解雇を決意したこと、以上が疎明される。
 (中略)
 前記疎明事実に照らすと、抗告人の勤務態度ないし勤務状況はマーケティング部長付部長(身分は次長)として雇用された抗告人に対する相手方の信頼と期待とを裏切り、雇用契約の目的を達することができないものと認められるから、これが右就業規則でいう「雇用を継続させることができない止むを得ない業務上の事情がある場合」に当たるものというべく、これが不当をいう抗告人の主張は理由がない。