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ID番号 03929
事件名 労働契約存在確認等請求事件
いわゆる事件名 国鉄折尾保線区職員兼職事件
争点
事案概要  旧国鉄職員が、国鉄総裁の兼職承認を受けないまま市町村議会議員に立候補して当選した場合において、国鉄の職員たるの地位を失うか否かが争われた事例。
参照法条 公職選挙法103条1項
日本国有鉄道法20条1号
日本国有鉄道法26条2項
労働基準法7条
体系項目 退職 / 失職
労基法の基本原則(民事) / 公民権行使 / 公民権行使と休職・解雇
裁判年月日 1988年2月25日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ワ) 639 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集39巻1号61頁/時報1311号136頁/タイムズ683号138頁/労働判例514号65頁
審級関係 控訴審/04792/福岡高/平 1. 7.20/昭和63年(ネ)165号
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-公民権行使-公民権行使と休職・解雇〕
 原告らは、労基法七条につき、公職に就いたことを理由とする雇用契約の解消は原則として許されないとする趣旨の規定であるとした上、労基法の右規定と国鉄法二六条二項との抵触を避けるには、不承認失職説を採るほかはない旨主張する。
 しかしながら、労基法七条は、労働者が公民権を行使するために必要な時間については、使用者に職務専念義務を免除すべき旨を命じているにとどまり、その結果生じる業務阻害等を理由として、労働者を休職にしたり、解雇することまで禁じるものではない。そして、前記各兼職禁止規定は、労基法七条を前提としつつも、公務員ないし公共企業体の役職員の職務の公共性、職務専念義務等に鑑みて、公職との兼職に伴う職務への悪影響のおそれが一般的にあると認められる場合について、公職との兼職の禁止を明記するものであり、これに違反したときには、任命権者が法律違反を理由に当該役職員を罷免、免職等の処分に付することも法律上認められているのであって、これら規定と労基法との抵触は、全く生じる余地がない。したがって、これら規定と趣旨を同じくする国鉄法二六条二項が労基法と抵触することはないから、原告らの前記主張は、その前提を欠くものといわざるを得ない。
〔労基法の基本原則-公民権行使-公民権行使と休職・解雇〕
〔退職-失職〕
 6 以上のとおり、当然失職説を論難する原告らの主張は、すべて理由がないものといわなければならない。
 四 さらに、原告らは、仮に当然失職説に従ったとしても、国鉄総裁による議員兼職承認は、何ら職員に対して特別の恩恵や利益を与える行為ではなく、不承認こそが、労働者の対使用者との関係において本来有する自由に対する重大な制限であり、しかも、右行為は、公定力を伴わない私人の行為に過ぎないから、不承認につき自由の制限の根拠として十分首肯するに足りる合理的理由を欠く場合には、兼職承認申請をした職員において、承認があったのと同様の法的地位を取得するものと解すべきである旨主張するが、右主張は、公選法一〇三条一項を空文化させるための原告ら独自の見解に過ぎず、何らの法的根拠をも見いだし得ないから、採用の限りでないことはいうまでもない。
 五 以上の次第で、原告らは、いずれも、国鉄職員に在職中、昭和五八年四月二四日行われた統一地方選挙において、市又は町の議会の議員に立候補して当選し、そのころ当選の告知を受けたものであり、国鉄職員と右各公職との兼職につき国鉄総裁の承認を得ていないものであるから、公選法一〇三条一項、国鉄法二六条二項、二〇条一号に基づいて、右当選告知の日に国鉄職員たる地位を辞したものとみなされることとなったものと認められるから、被告の抗弁は理由がある。