全 情 報

ID番号 03995
事件名 仮処分抗告事件
いわゆる事件名 倉田学園事件
争点
事案概要  就業規則上の法内超勤を命じうる旨の規定にもとづき始業時刻一五分前からの生徒指導の命令が有効であり、右命令拒否を理由とする降職処分が有効とされた事例。
 私立高等学校教諭から非常勤講師への降職処分が、労働契約の内容を変更するものであるが、懲戒権の行使として許されるとされた事例。
 私立高等学校の教諭が、部誌で業務上の秘密を洩らし、同校の教育方針を批判する記事。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 労働時間(民事) / 法内残業 / 残業義務
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 守秘義務違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1988年8月9日
裁判所名 高松高
裁判形式 決定
事件番号 昭和60年 (ラ) 6 
裁判結果 (確定)
出典 労働民例集39巻4号329頁
審級関係 一審/03144/高松地/昭59.12.27/昭和57年(ヨ)104号
評釈論文
判決理由 〔労働時間-法内残業-残業義務〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-守秘義務違反〕
 一 抗告人らに対する本件降職処分がなされるまでの経緯、抗告人X1及び同X2に対する本件命令が有効であり、右抗告人らが本件命令に従わないことが本件就業規則に定められた懲戒事由に該当すること、抗告人X3が本件部誌を発行配付したことが本件就業規則に定められた懲戒事由に該当することについての当裁判所の認定及び判断は、次のとおり補足及び訂正するほか、原決定の理由中の抗告人らと相手方とに関する該当部分の説示(抗告人ら全員と相手方とに関する部分が原決定二枚目表一〇行目から四枚目表四行目まで抗告人X1及び同X2と相手方とに関する部分が四枚目表六行目から一一枚目表二行目まで抗告人X3と相手方とに関する部分が一三枚目裏一一行目から二一枚目表一行目までである)と同じであるから、それらを引用する。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
 一般に、使用者は、労働契約(それは当事者対等という根本理念にしたがい規律されるべきものである)とは別個に、労働者に対する懲戒権を有するものでなく、したがつて、労働者は、懲戒処分により、使用者から処分前の労働契約と社会通念上同一性を欠く労働契約の締結を強制され、使用者の意思のみにより、処分以降の新たな労働契約に従う就労を当然に義務付けられるいわれはないというべきである。
 しかし、懲戒として解雇に値する程の非違行為が労働者に存在する場合において、懲戒権の行使が硬直化するのを避け、被処分者の不利益を緩和する手段として処分前の労働契約を一挙に終了させる(懲戒解雇)にとどめず、被処分者の自由な意思が受容する限り、新たな労働契約を締結する余地を残すことは、当事者対等の根本原則に背馳するものでなく、これを禁ずべき理由はない。したがつて、懲戒として解雇に値する程の非違行為の存在が肯定される場合で、かつ新たな労働契約の締結を強制するものでない限り、使用者が労働者に対する懲戒処分として、従来の労働契約をいつたん終了させ、同時に新たな労働契約の締結を労働者の自由な意思で選択する機会を与える趣旨の降職処分を設定し、そのような処分をすることは許されるというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 当裁判所は、本件各降職処分は懲戒権の濫用及び不当労働行為のいずれにも当たると認めるに足りないと認定判断するものであり、その理由は、原決定一一枚目裏一〇行目の「両名は、」の次に「その自由な意思で非常勤講師の職につくことを受容しなければ一挙に被用者の地位を失うし、その職につくことを受容した場合でも、」と加え、一二枚目表六行目の「処分」から七行目の「機会にも」までを「処分を受け、それらにより再三にわたり本件命令に従う機会があつたのに終始」と、二一枚目表二行目の「債権者ら」を「抗告人X3」とそれぞれ改めるほか、原決定の理由中の抗告人らと相手方に関する該当部分の説示(抗告人X1及び同X2と相手方に関する部分は原決定一一枚目表三行目から一三枚目裏八行目までであり、抗告人X3と相手方に関する部分は二一枚目表二行目から二二枚目表一〇行目までである)と同じであるから、それらを引用する。