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ID番号 04026
事件名 休職処分及び裁決取消請求事件
いわゆる事件名 東京都事件
争点
事案概要  公務執行妨害罪等で起訴された地方公務員に対する起訴休職処分が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
地方公務員法28条2項
体系項目 休職 / 起訴休職 / 休職制度の効力
裁判年月日 1988年10月6日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (行ウ) 156 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報1292号150頁/タイムズ687号157頁/労働判例529号74頁/労経速報1350号18頁/判例地方自治54号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔休職-起訴休職-休職制度の効力〕
 別紙(1)記載の「公訴事実」に摘示された原告の行為は、多数の者と共謀の上、職務中の警察官の顔面を手拳で殴打し、足蹴りするなどの暴行を加えて職務の執行を妨害するとともに、右暴行により約一週間の安静加療を要する傷害を与えたというものである。したがって、それが事実とすれば、一般社会人としての節度を著しく逸脱し、職員としての本分に反する違法、不当な行為であり、一般住民の強い非難を受ける性質のものであることが明らかである。しかも、「公訴事実」のうち公務執行妨害罪は、法定刑が三年以下の懲役又は禁固であるから、仮に右事実について有罪判決が言い渡されて確定すれば、原告は、地方公務員法一六条二号に定める欠格事由に該当して当然失職する筋合いのものである(同法二八条四項)。また、原告が当時担当していた職務は、都営住宅用地の保全に関する重要なもので、対人的な接触、交渉を避けることができず、境界についての専門的な判断を要する場合もあり、その結果は一般住民の権利義務に密接に関係する性質のものであったことは、前述のとおりである。これらを総合すると、原告が右のような公訴事実に基づいて起訴されたということは、それだけで原告に職員としての信用失墜行為があったのではないかという疑惑を一般住民に与えるに十分なものであり、また、客観的に見て、職場規律ないし秩序の維持に何らかの悪影響がありうることも、容易に推認されるところである。
 もっとも、原告は、被告知事が一旦は休職処分にしないこととしたことから、従前どおり出勤して職務に従事していたが、昭和四九年三月二四日、刑事裁判の第一審で、懲役五月、執行猶予二年の有罪判決を受けたのであって、このことは、原告の行為が犯罪を構成する違法、有責なものであることが裁判所の公権的判断によって明確に宣言されたことにほかならないから、それが持つ意味や一般住民に与える影響は、検察官による公訴提起のそれと比較して遥かに大きく、かつ、深刻なものがあることは、いうまでもないところである。したがって、たとえ判決は未確定であっても、起訴当時に存した前記の信用失墜のおそれはこれによって一層顕在化したということができるから、原告がその後も引き続いて職務に従事する場合には、将来において、職務遂行に対する一般住民の信頼を揺るがせ、ひいては官職全体に対する信用を失墜させる危険性が増大したものといわざるをえない。また、原告が有罪判決を受けた状態で職務に従事する場合には、上司や同僚が具体的にこれを間題とするかどうかは別として、客観的に見て、職場規律ないし秩序の維持に好ましからざる影響が生ずるであろうことは、極めて見易いところである。
 そして、これらの事情を総合的に考慮すると、一旦は休職処分にしないこととした被告知事が、有罪判決の言渡しを契機として改めて検討を加えた結果、原告が公訴提起にかかる事実について有罪判決を受けた状態で職務に従事することは将来において公務の信用を失墜させるおそれが大きいと判断して休職処分にしたことは、相当の合理性、必要性があったものということができる。したがって、たとえ、原告はいわゆる平職員であって管理監督的立場にはないこと、原告の行為が都職労大会の場で偶発的に発生したもので職務とは関係がないこと、被告知事が一旦は休職処分にしない旨を決定したこと、本件処分が起訴から二年七か月、有罪判決から四か月を経た後にされたこと、原告は、保釈になって以来、従前どおり職務に従事し、しかも、そのことに関して一般住民からの問い合わせや苦情等もなかったことなど、原告が主張する全ての事情を斟酌しても、本件処分は、なお休職処分について被告知事に与えられた裁量の範囲内に属しており、適法であると解するのが相当である。