全 情 報

ID番号 04094
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 恵城保育園事件
争点
事案概要  懲戒解雇事由が存在するときは、通常解雇など懲戒解雇以下の処分をなしうるとされた事例。
 会計管理上の越権行為を理由とする主任保母に対する降格処分、その後の通常解雇につき、懲戒事由に該当しないとして無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
裁判年月日 1985年2月6日
裁判所名 高松地丸亀支
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (ヨ) 9 
裁判結果 認容
出典 労働判例454号68頁
審級関係 控訴審/04006/高松高/昭63. 9.12/昭和60年(ネ)51号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換・関係〕
 被申請人は、申請人の行動が就業規則で定める服務規律に違反し、あるいは懲戒解雇事由に該当するに至ったので、当然懲戒解雇すべきところを先ず、本件降格をなし、申請人が反省の情を示すか否かを観察したが、その反省がみられなかったので本件解雇(通常解雇)をした旨の主張をするところ、このように懲戒解雇にすべきところを降格にとどめることはもとより通常解雇とすることは、当該労働者の利益にこそなれ、不利益にならないのであるから、懲戒解雇に価する事由が存在する限り、許されるものと解すべきであり、このことは就業規則に降格処分が懲戒の種類として規定されていない場合においても理は同じである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 組合が組合活動として、父母の会が子供の保育環境に関心を持って団体行動をなすに際して、社会福祉法人としての公益性の強い被申請人の労務管理・経理等に対し批判を加え、これを公にすることは当然許されるべきで、その批判が強い非難的語調にわたることもある程度やむを得ず、それが理事等に対する辞任要求の表現をとったとしても、経営権に介入するものとして一概にこれを不当視すべきものとはいえない。しかしながら、何らの事実上の根拠なしに、あるいは相当な理由を示すことなく、いたずらに侮辱的言辞を用いてこれを非難攻撃することは園の名誉や信用を傷つけ争議手段ないしは父母の会の団体活動としても公正を欠き、正当性の限界をこえるというべきである。
 そこで、右観点から前記認定の組合や父母の会の言動を検討すると、先ずビラ等による攻撃については、保育条件の良し悪しは多分に主観的なものであるばかりか特別監査事件後も乳児の給食の質が低下したことがあったこと、特別監査事件については内容的にも重大な不正事件であり、その後始末は昭和五三年度まで及んだほか、更に昭和五五年度の県の監査により会計上の疑点が指摘されていること等に徴すると、昭和五二年二月以降においてもこの事件を取り上げることはやむを得ない面があること、リベートの収受については、とかく問題が起り易いものであるから特に慎重にかつ明確に処理する必要があるのに、被申請人においては少なくともA写真館からのリベート問題が起るまでこの点の関心を十分に払った形跡がないこと、B夫婦に関しては、園長又は園長代行の就任が県により拒否され、C園長辞任後は園長が長らく空白となっていた等の事情があったこと等を考えると、そのビラの内容が強い非難的な言調にわたり、その妥当性について疑問な部分もないではないが、それが何ら根拠もなくいたずらに侮辱的な言辞を用いて被申請人や理事会等の名誉を失墜させているものとは認め難い。
 そして、更に県等行政機関への陳情や申立・監査請求等についても、特別監査事件の発生及びこれ以後の行政指導の経過や被申請人の社会福祉法人性を考えると、特に被申請人の名誉を失墜させるためになしたものとも認められない。
 八 要するに、被申請人が本件降格及び本件解雇の事由として主張するところは、以上それぞれの項で認定した限度において認められるにとどまり、これらを総合してもいまだ申請人に対する本件降格及び本件解雇を適法ならしめる正当な理由とするに足りない。申請人が巌に対し反抗的言動をなしその服従義務に違反した点等も先に認定した各般の事情を総合して考察すれば直ちにこれを正当な懲戒事由と認めることはできないのである。
 以上の次第で、申請人の言動が懲戒解雇に価しない以上、本件降格及び本件解雇は、その余の点について検討するまでもなく、被申請人が懲戒権を濫用して行った無効のものといわざるを得ない。