全 情 報

ID番号 04178
事件名 一時金支払請求事件
いわゆる事件名 松下電器産業事件
争点
事案概要  大阪の事業部営業課に勤務していて北海道営業所への転勤命令を受け、異議をとどめつつ赴任した後、会社は右労働者を右事業部営業課に勤務する従業員として取扱えとの仮処分を得た後右大阪の営業課に出社して労務を提供しても会社がその受領を拒否しているとして賃金等を請求した事例。
参照法条 労働基準法2章
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権
裁判年月日 1970年4月7日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ワ) 4862 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集21巻2号481頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権〕
 原告は、本件仮処分命令により定められた原告の労務を提供すべき場所である被告照明器具事業部に出社して労務を提供したのにかかわらず、被告はその受領を拒否したのであるから、原告は、出勤系数一〇〇%として算定した各一時金を請求する権利がある旨主張し、被告は、これを争うので検討するに、前記各協定の適用を受ける従業員が、被告の責に帰すべき就労拒否のため就労できなかつた場合には、前記不在日数控除の規定は、当該従業員には適用されないと解すべきであるから、原告が、昭和四一年度下期一時金の考課期間のうち同年八月二二日以降と、昭和四二年度上期、同年度下期、昭和四三年度上期各一時金の考課期間の全期間につき就労しておらないことは原告の自認するところであるけれども、右不就労が被告の責に帰すべき就労拒否による場合には、原告は、出勤系数一〇〇%として算定した各一時金の支払を請求する権利を有するものということができる。そうして、原告の右不就労が、被告の責に帰すべき就労拒否によるものといい得るためには、その前提として、原告が、債務の本旨に従つた労務の提供をすることを要し、右労務の提供は、勤務場所においてなすべきものであるところ、原告は、本件仮処分命令により定められたことを理由として原告の労務を提供すべき場所は、被告照明器具事業部である旨主張するのであるから、本件の争点は、先ず、本件仮処分命令が、本件において、原告の労務を提供すべき勤務場所を判断するについて、当裁判所を拘束するかどうかに存するわけである。
 成立に争いのない甲第一号証によると、本件仮処分命令は、疎明によつて、本件転勤命令が不当労働行為として無効であることを理由に、原告に旧勤務地である被告照明器具事業部を勤務場所とする雇用契約上の権利があることおよび保全の必要性を一応認定し、当初から右転勤命令がなかつたと同様の原告の被告照明器具事業部勤務の従業員たる地位を仮りに定めたものであることが認められる。
 したがつて、本件仮処分命令の形成力の作用により、あたかも一般の形成判決と同様に主文どおりの内容がそのまま具体化され、当初から転勤命令がなかつたと同様の原告の右事業部を勤務場所とする雇用関係を認めなければならない状態が現出することは否定できないとしても、本件仮処分命令は、原告に、被告照明器具事業部を勤務場所とする雇用契約上の権利があることの確認を求める本案訴訟を前提とし、これに付随して、右訴訟の完結に至る迄の一時的暫定的な原告の前記のような地位を定め、右地位に基づいて発生する具体的権利の実現を被申請人である被告の任意の履行に期待することを内容とし、その限度において一の仮りの地位を定めたものにすぎず、前記本案訴訟の判決が確定した場合に生ずる終局的確定状態と同一でないことは当然であるから、たとえ、本件仮処分命令が確定したとしても、原告に、被告照明器具事業部を勤務場所とする雇用契約上の権利があるか否かを判断するについて当裁判所を拘束するものではない。
 そうだとすると、本件仮処分命令が存在することの一事をもつてしては、原告の勤務場所が、被告照明器具事業部であると断定できないことは明らかであり、他に、原告において、原告の労務の提供をなすべき勤務場所が被告照明器具事業部であることの主張も立証もしないから、たとえ、原告が、その主張のとおり前記不就労の期間、右事業部に出社して労務を提供したとしても、右労務の提供が債務の本旨にしたがつた労務の提供とはいえず、原告の右不就労が被告の責に帰すべき就労拒否によるものということもできない。