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ID番号 04186
事件名 退職手当不足金等請求控訴事件
いわゆる事件名 退職手当請求事件
争点
事案概要  台湾総督府法院判官を退職後、判事に再就職するまでの間に弁護士を開業していた者の退職手当の支給義務についての履行期が争われた事例。
参照法条 労働基準法11条
国家公務員退職手当法2条
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金の支給時期
裁判年月日 1970年5月29日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (行コ) 39 
昭和40年 (行コ) 51 
裁判結果 一部取消,一部棄却
出典 行裁例集21巻5号852頁/東高民時報21巻5号110頁/タイムズ254号158頁/訟務月報16巻11号1289頁
審級関係 一審/05421/東京地/昭40. 8.19/昭和36年(行)132号
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職金の支給時期〕
 法はその第二条において、「退職した場合」退職手当を支給する旨規定するのみで、支給すべき日を明定していないが、その趣旨は、退職と同時に退職手当を支給すべき債務が発生するとはいえ、その履行期は、当該の各事案にかんがみ、退職後退職手当の支給を準備するために要する合理的な期間を経過したときに到来するものとするにあると解するのが相当である。
 これをふえんすれば次のとおりである。すなわち退職手当は「退職した場合」に支給すべきものであるから、退職なる事実の発生により支給すべき債務が当然発生することはもとよりいうまでもないところであるが、死亡による退職の場合には、死亡の日をあらかじめ知り得ないから、退職の日に退職手当を支給できるようにあらかじめ準備することは不可能であり、また、退職の日を最も確実に予測できる定年退職の場合においても、それはあくまでも予測であるにとどまり、定年前の死亡、退職手当の支給制限事由の発生等退職手当の支給に影響を及ぼすべき未確定要素の存在を無視することもできないのみならず、会計法規は、退職なる事実が確定的に発生した日の翌日以後において、各省、庁の長の退職手当の支給決裁(会計法一〇条)およびその通知行為としての退職者に対する支給辞令書の交付、その他具体的な支給手続として、(一)大蔵大臣に対する支払計画表の送付(財政法第三四条第一項、予算決算及び会計令第一八条の一〇第一項)、(二)これに対する大蔵大臣の承認通知(同令第一八条の一一)、大蔵大臣より日本銀行本店に対する支払計画通知、(三)退職者の所属庁に対する支払計画表ならびに支出負担行為計画示達表の送付(同令第三九条、第四一条)、日本銀行本店から所属庁所在地の日本銀行支店の所属庁支出官口座への振込み、(四)同支出官の同支店に対する小切手振出による送金依頼(会計法第二一条第一項、予算決算及び会計令第四九条第一項、支出官事務規程第一五条第一項、第一七条第一項)、(五)同支店の同支出官に対する小切手領収書の交付(日本銀行国庫金取扱規程第三〇条)、(六)所属庁より退職者に対する国庫金送金通知書の送付、同支店より退職者居住地の銀行に対する支払のための送金等の一連の手続を履践すべきことを要求しており、会計担当官はこれら所定の手続を遵守すべき公法上の義務を負うものであるから、一般的にいつて退職と同時に退職手当の支給を求めることは、時間的に不能を強いるにひとしく、したがつて退職手当の履行期は普通の場合においては右手続履践に必要な期間、また特殊な場合例えば法令の改正に伴ないその運用につき疑義を生じ、研究を要するような場合には、その研究に必要な期間等例外的に必要とされる手続に要する合理的な期間を経過したときにはじめて到来するものとする趣旨であると解するのが相当である。