全 情 報

ID番号 04231
事件名 身元保証金返還請求控訴事件
いわゆる事件名 緑屋事件
争点
事案概要  会社が従業員に特別賞与金の引当として取得させた自社株式につき、従業員が定年退職する場合は会社においてその譲渡を受け、時価相当の金員を支払うが、定年前に任意退職する場合は右株式は原権利者に返還される旨の約定の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法5条
民法90条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 強制労働
裁判年月日 1969年2月28日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ネ) 1930 
裁判結果 棄却
出典 東高民時報20巻2号46頁/タイムズ237号280頁/金融商事182号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-強制労働〕
 ところで、その後被控訴人らとA会社との間に成立した前記名義株式に関する契約中に、被控訴人らが、自侭にA会社を退職した場合には、寄託株式の時価相当金額の支払を求め得ない旨の条項が存することは前認定のとおりであり、もし右条項が、被控訴人らと控訴人間の株式寄託の法律関係をも規制する効果をもつものとすれば、A会社を任意退職した被控訴人らはその主張のような金員請求権をもたないことになるので次にこの点を検討する。
 さて前記名義株式に関する契約は、被控訴人らとA会社との間にそれぞれ締結されたものであつて、契約当事者の点において被控訴人らと控訴人との間に締結された前記寄託並びに身許保証契約とは異なるものがあるけれども、先に認定したA会社は控訴人と代表取締役を共通にしている事実及び原審証人B、同Cの各証言によつて認められるところの、控訴人は代表取締役のほか他の役員もA会社と共通で、しかも自らは事務部門を持たず、専らA会社の仕入部門を担当する会社であつて、株式関係の事務はすべてA会社の株式課で取扱つていた事実と、右名義株式に関する契約書である成立に争いのない乙第三、四号証の各冒頭部分の記載を併せ考えれば、右契約は控訴人と被控訴人らとの間の前記寄託並びに身許保証契約に優先してこれを適用し、その契約内容に牴触する範囲において前の契約内容を変更訂正するとの拘束を、A会社に対する関係においてのみならず、対控訴人の関係においても被控訴人らに負わせる趣旨の合意を含むものと認めるのが相当である。しかしながら右乙第三、四号証記載の契約条項中、被控訴人らの控訴人に対する寄託株式は、被控訴人らが定年に達するまでA会社に勤務することによつてはじめて実質上被控訴人らに帰属することとし、そのため被控訴人らが寄託株式の時価相当の金額の支払を受け得る退職を定年退職に限定して、任意退職の場合にはその支払を受け得ないと定める部分は、右株式が前認定のような経緯によつて名実ともに被控訴人らが取得したものであるとの事実を没却し、被控訴人らの既得権を侵害し、雇用契約を利して被用者たる被控訴人らに不当に不利益を課し、使用者たるA会社を故なく有利に取扱わんとする点において民法第九〇条に違反するのみならず、被控訴人らをして定年までA会社に勤務することを間接的に強いる素因を含む点において労働基準法第五条の精神に違反する無効なものといわなければならない。