全 情 報

ID番号 04267
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 東邦大学事件
争点
事案概要  学園紛争の事態収拾のため教授会に退職願いを提出した大学助教授が後にこれを撤回したにもかかわらず退職承認辞令が出されたため地位保全の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願いの撤回
裁判年月日 1969年11月11日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和44年 (ヨ) 2294 
裁判結果 認容
出典 時報590号90頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-退職願-退職願いの撤回〕
 申請人は、翌四月二二日午前一一時頃から約七時間に亘り、学生大会において抗議と追及を受け、その結果同日午後六時頃から開かれた理学部教授会においても、申請人が退職する以外に事態収拾の途はないとの空気が強くなり、申請人は、止むなく同月二三日「このたび一身上の理由により昭和四四年 月 日をもって退職いたしたいので御許可くださるようお願いいたします。」との退職願を理学部長を通じて被申請人理事長宛に提出した。申請人は、上記のようないきさつで右退職願を提出したのであるから、被申請人としても申請人の退職の際の処遇については相当の配慮をしてくれるものと期待していたところ、その後の被申請人側の態度が、学生との紛争を収拾することのみに急で、必ずしも申請人の立場を十分に酌まず、その期待に副うものでなかったため、申請人は、これを不満として、同年六月八日書面をもって被申請人理事長に対し、先に提出した退職願を撤回する旨申入れ右書面は同月九日被申請人に到達した。他方、被申請人側は、理学部教授会において申請人の退職願を受理することに決し、内部的には同年六月二日に理事長の承認を得ていたけれども、申請人との関係において「願により本職を解く。」旨の人事異動通知書が申請人に宛て郵送されたのは同月一一日になってからであった。
(中略)
 右認定の事実によると、申請人は、昭和四四年四月二三日被申請人に対し、就業規則の規定に従い、退職願の提出をもって被申請人との間の雇傭契約を合意解約したい旨の承諾期間の定めのない申込の意思表示をなしたが、その後約一ケ月半を経過した同年六月九日にいたって右申込の意思表示を撤回し(上記就業規則の退職条項は、その文言および強行規定である民法六二七条の法意に鑑みると、雇傭契約の解約申入(告知)に関して規定したものと解することは相当でなく、申請人の本件退職願の提出も、これを一方的な解約申入の意思表示とみることはできない。)、被申請人は、右撤回の後である同月一一日に人事異動通知書をもって承諾の意思表示を発したものといわざるを得ず、申請人が退職願を提出するにいたった経緯に照らせば、申請人の右退職願撤回の意思表示は、申請人が被申請人から承諾の通知を受けるに相当な期間を経過した後になされた有効なものと認めるのを相当とするから、申請人と被申請人間において雇傭契約解約の合意は成立せず、両者間の雇傭契約関係は依然として存続しているものといわなければならない。