全 情 報

ID番号 04291
事件名 仮処分異議事件
いわゆる事件名 京浜横浜自動車事件
争点
事案概要  就業規則の周知につき、本件では申出により常時閲覧できる状態にあったので周知方法を欠いたとはいえないとされた事例。
 兼業、違反ピケッティング等を理由とする懲戒解雇につき、解雇権濫用にあたり無効とされた事例。
 労基法二〇条一項但書の除外事由があれば、行政官庁の除外認定はなくても解雇の効力は発生するとされた事例。
参照法条 労働基準法20条1項但書
労働基準法89条1項9号
労働基準法106条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の周知
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 二重就職・競業避止
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
解雇(民事) / 解雇予告と除外認定 / 除外認定と解雇の効力
裁判年月日 1968年4月15日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和41年 (モ) 1867 
裁判結果 一部認容,一部却下
出典 労働民例集20巻6号1762頁
審級関係 控訴審/04273/東京高/昭44.12.24/昭和43年(ネ)965号
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則の周知〕
 先ず、申請人らは、会社の就業規則は、従業員に周知徹底されていないから、効力発生要件を欠く無効なものであると主張するけれども、(中略)会社は昭和二六年頃就業規則を作成し、同二九年一月五日横浜南労働基準監督署に届出て、以後蒔田営業所にも備えつけ、従業員からの申出によつて常時閲覧できる状態になつていたことが認められるから、たとえ申請人らが未だ閲覧していなかつたとしても、周知方法を欠いたとは云えない。
〔解雇-解雇予告と除外認定-除外認定と解雇の効力〕
 更に申請人らは、会社は本件解雇にあたり、除外認定申請をしなかつたから、解雇は無効であると主張し、会社が除外認定申請をしなかつたことについては当事者間に争いがない。然し、労働基準法第二〇条第一項但書の所謂除外事由があれば、行政官庁の除外認定はなくとも解雇の効力は発生すると解すべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-二重就職・競業避止〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 申請人らは、右稼働はいわゆるアルバイト的のものである、あるいは非番の日の稼働が出番の日の勤務に影響をおよぼさない本件の待機扱いは通常の場合と異なるから会社の定めた場所で待機しなければならないものではないと主張するが、たとえ本件待機扱いが通常の場合と異なつていたとしても、申請人らは賃金を得ているのであるから、その反対給付としての労務の提供をなすべき義務があり出勤日には会社が指定した場所で待機すべきは当然であつて、この日に他で稼働することが許されるいわれがなく、また前記疏明事実によれば、申請人らの非番の日の稼働も不定期とは云え、その日は長時間そこの従業員と同様に働いていたことが窺われるから、これが出番の日の勤務に全く悪影響をおよぼさないとみることはできない。そうすると申請人らの右主張は採用の限りでなく、申請人らの前記稼働は就業規則第三一条第一〇号に該当するものと云わざるを得ない。会社は、本件解雇にあたり、就業規則第三一条第四号、第一三号をも適用しているが、申請人らの前記行為がその条項に該当するものとは認められず、ほかに右各号に該当する事実の存在につき疏明がない。
 (四) 申請人らは、申請人らの前記行為が就業規則所定の懲戒解雇事由に該当したとしても、前記行為をなすに至つた事情を考慮すれば、本件解雇は解雇権の乱用であると主張するので判断する。
 (中略)
 神自交は、組合規約において支部にも支部大会の開催支部細則の制定、支部に特有な事項についての団体交渉などの権限を認めていたところ、昭和三九年一一月一〇日第一組合の臨時大会が開かれ、神自交の内紛にからみ、申請人らを除く組合員全員が神自交から集団脱退をした。その際脱退に同調しない申請人X1、同X2、同X3を除名するという事態が発生し、脱退者らは会社と第一組合間に存したユニオンシヨツプ協定に基き、右申請人らを解雇するように会社に迫つた。然し右申請人らは、神自交が単一組合である以上神自交からの脱退者は最早第一組合員でないものと考え、入院加療中で大会に参加していなかつた申請人X4を除く申請人らで大会を継続し、申請人X1を第一組合支部長に、同X2を副支部長に、同X4を書記長に、同X3を会計部長にそれぞれ選出した。
 他方脱退者らは第二組合を結成したが、これは第一組合の名称を変更したにすぎないとの見解のもとに、同月一一日頃から申請人らの就労をピケなどにより妨害する行為に出た。更に同年一二月九日申請人X4をも除名して、申請人らの解雇を執拗に会社に迫つた。
 会社は、第二組合に対し申請人らの解雇要求を拒否したものの、第一組合と第二組合との紛争に巻きこまれることを避け、第二組合員らの就労妨害を排除することをしないで妨害も約二週間くらいでおちつくものとの見通しを立て同年一一月一一日以降申請人らを待機扱いにし、いずれも別紙賃金目録記載の平均賃金の七割五分ないし八割に相当する待機手当を支給した。然し申請人らは、待機手当のみでは生計の維持にも事欠くので、会社に対し就労妨害行為を排除して申請人らを就労させるよう求め、平均賃金の支給を請求した。ところが会社は、申請人らと第二組合員との抗争は神自交の内部分裂に端を発した組合内部の問題であるから、当事者間で話し合い解決すべき性質のものであるとの立場を維持し続け、単に話し合いの斡旋を双方に申し入れたのみで、積極的に申請人らを就労させるべく努力しなかつた。そこで申請人らは、待機手当による減収分を補うため昭和三九年一二月中旬頃から同四〇年七月頃までの間、稼働目録(一)記載のとおりA会社などにおいて臨時運転手として稼働するようになつた。
 (中略)
 右認定事実に基いて考える。第二組合員らが実力で申請人らの就労を阻止することは当然許されないし、また会社従業員である申請人らに対する就労妨害はとりも直さず会社に対する業務妨害行為であつて、会社は第三者的立場にあるものではない。そこで会社としては単に双方に対し話し合つて解決するように斡旋するだけではなく、もつと積極的に就労妨害を排除すべきであるのに拘らず、第二組合と正面衝突することを避け、二週間もしたら第二組合員らの就業妨害もおちつくものと見通しをたて、申請人らを待機扱いにしたまま、漫然と時を過し傍観者的態度をとり続けた。一方申請人らは会社の態度等からして早急に就労することはできないと判断し、減少した収入を補うためにA会社などで不定期に稼働したのであるが、会社はその事態招来に対する自己の責任を顧ず、単に稼働の事実だけを捉えて、これによつて申請人らを解雇し、もつて企業の平穏を図ろうとしたものであるとみるのが妥当である。もつとも会社が積極的に第二組合員らの就労妨害を排除しようとすれば、第二組合、更にはその上部組織である神奈川ハイヤー、タクシー労働組合と正面から対決することになり、かなりの混乱が生ずるであろうことは一応予測できるが、それなら会社は申請人らと話し合つて何らかの解決方法をみい出すべく努力することが望まれるのに、それをしないで少くとも数の上において弱い立場にある申請人らにこの皺寄せをして、事態の収拾を図ろうとした会社の態度は是認することができない。
 そうすると、就業規則第三一条第一〇号に基く申請人らに対する懲戒解雇は相当とはいえず、解雇権の乱用であると判断せざるを得ない。