全 情 報

ID番号 04301
事件名 賃金支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 京浜電測器事件
争点
事案概要  労働組合の金員を自己費消したことなど、業務外の不正行為を理由とする懲戒解雇および普通解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法2章
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行
解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為
裁判年月日 1968年8月6日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (ヨ) 2175 
裁判結果 認容
出典 時報540号79頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務外非行〕
 ところで申請人の前記(二)(三)(本件解雇理由(一)(二))の各行為が前記(一)認定の就業規則第七六条、第一一号に該当することは否定し得ないところであるが、《証拠略》によれば右(二)の事実は本件懲戒解雇の約二年前のことであって、当時組合執行委員会でこのことが問題となるや直ちに申請人から組合に謝罪状を差出し且つ直接前示印刷会社に印刷代金一万二〇〇〇円を支払って既に解決済であることが疎明され、また右(三)についても昭和三六年一二月九日全額弁償済であることは前示のとおりである。
 前記(四)(本件解雇理由(三))の事実においては、申請人の行為により被申請会社が事業上の損害を蒙った形跡がないから、これをもって同条第一〇号に該当するものとはいい難く、たかだか同条一三号の「前各項に準ずる程度の不都合の行為」があった場合に当るにすぎない。
 前記(五)(六)(本件解雇事由(四)(五))の事実も申請人が(五)判示の金員を不健全な用途に費消していたという疎明はなく、却って《証拠略》によれば主として生活に追われた結果であることをうかがえないわけではないので、これをもって被申請人の主張の如く同条五号の「素行不良」に該当するとは速断し難く、また、前認定の如く被申請会社に事務上多少の手数をかけ或は同僚等に対する借受金の弁済が多少おくれたからといって「職場の秩序を紊したもの」に該当するとはいい難い。なお、これが同条第一三号の「前各項に準ずる程度の不都合な行為」にあたるものとも解し得ない。
 (九) 以上のとおりであるから、申請人の前記各行為により被申請会社として申請人との雇傭契約を継続していく上に多少の不安を感じたとしても無理のないことであるが、右各行為中、就業規則所定の懲戒解雇事由に一応該当するのは前記(二)(三)(四)(本件解雇事由(一)(二)(三))の行為のみであり、かつ、これらも前認定の態容、経過に照らすときは、未だ職場の秩序を維持していく上において申請人を経営から放逐しなければならない程の非行ということはできない。
 前示(七)認定にかかる身元保証契約解約及び組合除名に関する事実関係を考えあわせても右判断を左右するに足りない。
 そうであるとすれば、本件懲戒解雇の意思表示は懲戒権の濫用として無効というべきである。
〔解雇-解雇事由-不正行為〕
 被申請人が申請人に対し昭和三八年九月一一日通常解雇の意思表示をしたことは当事者間に争いなく《証拠略》によれば当時施行中の被申請会社就業規則第一八条には「次の各号の一に該当するときは三〇日前に予告するか、または平均賃金の三〇日分を支給して即時解雇する」と規定し、これをうけて一号「已むを得ない業務上の都合による場合」、二号「精神病又は身体虚弱その他の理由により業務にたえないと認めた場合」、三号「勤務成績または能率が不良で就業に適しないと認められた場合」、四号「休職期間が満了するも復職が不可能と認められた場合」、五号「その他前各号に準ずるやむを得ない理由がある場合」と列挙されていることが疎明される。
 ところで、被申請人は前認定にかかる二の(二)ないし(五)(本件解雇事由(一)ないし(四))が前記就業規則第一八条五号にも該当すると主張するので、この点につき考えるに、前示二の(二)ないし(五)判示の申請人の各所為は、(四)の場合を除きいずれも被申請会社の業務に関係するものではないから、到底同条第五号にあたるとは解し難く右(四)の所為もまた同条同号の「やむを得ない理由ある場合」にあたるとは考えられない。
 しかも、本件通常解雇の意思表示はは申請人が被申請会社を相手どり当庁に地位保全の仮処分を申請し、当庁昭和三七年(ヨ)第二一一八号事件として申請人勝訴の第一審判決がなされた後に控訴審においてなされたものであって、もし、本件懲戒解雇の効力が右第一審で否定されなかったならば行われなかったものと推測される事情を考えあわせると通常解雇の意思表示も本件懲戒解雇と同様解雇権の濫用にあたり無効というべきである。