全 情 報

ID番号 04305
事件名 雇傭契約存在確認請求事件
いわゆる事件名 日本電気事件
争点
事案概要  転勤命令拒否を理由とする懲戒解雇につき、労働協約にもとづき会社は配転命令権を有しているが、同人が病人をかかえていることを考慮すると右命令は権利濫用であり、懲戒解雇も無効とされた事例。
 出向を命じうる旨の労働協約により、従業員には出向命令に応じる義務があり、組合役員に対する出向命令拒否を理由とする懲戒解雇が相当とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の限界
裁判年月日 1968年8月31日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ワ) 10139 
昭和38年 (ワ) 8424 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働民例集19巻4号1111頁/時報539号15頁/タイムズ230号233頁
審級関係
評釈論文 後藤清・季刊労働法72号141頁/松林和夫・月刊労働問題127号110頁/正田彬・法学研究〔慶応大学〕41巻12号89頁/浜田冨士郎・ジュリスト444号151頁/本多淳亮・労働法学研究会報782号1頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 まず原告らは本件転勤命令が原告栗橋と会社との間の雇傭契約に反しているから一方的にはなし得ないと主張している。
 しかし、(中略)
 すなわち、原告X1は被告との雇傭契約により、原則として被告に対し同原告の労務を提供すべき場所等を指定し、その労務を具体化する権限を委ねたものというべく、従つて会社が右の権限に基いてする転勤等の命令は会社が一方的に意思表示をすることによつてその法的効果を生ずるのが原則であつて、必しも原告X1の同意を必要とするものではないといわなければならない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 他方、前記のような家庭の状況からすると原告X1が本件転勤命令に従つて広島へ赴くことは経済的にも困窮を来すばかりでなく、同家族の生活が危機に瀕する虞があることは容易に推察し得るところであつて、それを避けるためには原告X1は自ら退社して他に職を求めるか、広島への転勤命令を撤回して貰うかのいずれかの方法しかなかつたと認められるところである。
 これに対し会社側は原告X1に対し経済的条件について考慮する旨を通告していたのは前記認定のとおりであるが、原告X1の事情はその程度の経済的条件の考慮によつても解決し得ないものであることは前述の事情に照らし明らかである。
 なお、原告X1自身も入社に際し、転勤すべき義務のあることを了解していたことは前記のとおりであるとしても、転勤し得ない労働者は採用しない旨会社が明示したなどの特段の事情のない限り、入社後の事情の変更により転勤し得なくなつた従業員に転勤等を強いることは酷にすぎるものといわねばならない。
 以上判断したような会社の原告X1に対する広島支店への転勤命令の必要性と、原告X1がそれに応じることによつて受けるべき影響ならびに会社がそれらの事情を考慮すべきであることを比較考量すれば、本件転勤命令は著しく均衡を失しているものといわねばならず、したがつてその転勤命令はその法的効果を生じないものと解するのが相当である。
〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕
 (1) まず原告らは本件出向命令が原告X2と会社との間の雇傭契約に反しているから会社が原告X2の同意なくしてなすことはできないと主張している。
 (中略)
 してみると、原告X2はA会社に出向することにより、原告X2に対する指揮命令権者および賃金支払義務者はA会社となるのであつて、事実上、民法六二五条一項の「使用者の権利の譲渡」に類似するから、労務者である原告X2の同意なくしてはなし得ないのではないかとの疑問が生じるけれども、そもそも、原告X2が入社するに際しその提供する労働力の種類、態様、場所等について特段の合意をしたものと認めるに足る証拠がない以上、原告X2は原則としてその提供する労働力の種類、態様、場所等については会社の指示ないし命令に従うことを暗黙のうちに合意していたものというべきところ(したがつて、もし会社が業務上の必要に基づいて原告X2に対しA会社の独立前の工事所への配置転換を命じたとするならば、原告X2はそれに従わねばならないような事情にあつた。)、従来会社の一部門であつた工事所が分離独立し会社と別会社となつたので、会社は従来業務上の必要に基づき同部門勤務を命ずるについて出向等の形式をとらねばならなくなつた事情が窺われる。そして、そのような経緯と前記のごとき労働協約一八条一項の条項およびその成立経緯に照らして考えると、少くとも会社は同協約により、その従業員に対しA会社への出向を命じ得ることとなつたものと解するのが相当である。すなわち、入社当時、原告X2と会社との間の雇傭ないし労働契約において出向義務を約せず、したがつて原告X2は会社のなす出向命令に応ずべき義務はなかつたものとしても、右労働協約の成立により、原告X2は少くともA会社への出向命令には応じなければならなくなつたもので、右契約もその限度で変容を受けているのである。
〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の限界〕
 他方、前記の事実関係からすると、会社側が原告X2をA会社へ出向させる業務上の必要は大きいものがあると認めることができる。すなわちA会社は会社の製品の取付工事およびその後の保全補修を主たる業とするものであるから、出向者の労務の提供は一面においてはA会社のためであるが、他面、会社の利益にも連がるところがあるのであつて、そのような事情の下にA会社からの人員派遣要請に会社が応じ、その従業員に出向を命ずることは十分合理性があるものといわねばならない。そして、A会社の業務内容に照らし、会社が品質管理課保全係の中から選出することとし、その中で経験、年令等を考慮して原告X2を選んだことが不相当であると認めるに足りる証拠はない。なお、前掲乙第六、七号証ならびに証人BおよびCの各証言によれば、昭和三八年五月当時原告X2は日給者であつたところ、従来三田事業所からA会社へ日給の技術者が出向を命ぜられた例が窺われ更に原告X2と同時にA会社に出向を命ぜられたDも日給者であることが認められ、また証人Bの証言によれば三田事業所においてもA会社以外に日給者の出向を命じた例があることが認められ、さらに証人Cの証言によるとA会社へ三田以外の事業所から日給技術者が出向している例があることが認められるのであるから、日給者の出向を特異なものであるとは認め難い。