全 情 報

ID番号 04310
事件名 分限免職処分執行停止申請事件
いわゆる事件名 北九州市事件
争点
事案概要  市政合理化のため満六八歳以上の者にのみ勤務評定を行ない、勤務成績不良の者を分限免職することは、年齢にもとづく差別であり、地公法一三条、二七条一項、二項に違反するとして、右免職の執行停止申立が認容された事例。
 解雇予告手当を退職手当に含めている場合は、解雇予告手当を支払わずになした解雇も右退職手当の支給により治癒されるとした事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法20条
地方公務員法13条
地方公務員法27条1項
地方公務員法27条2項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇予告手当 / 解雇予告手当の支払方法
裁判年月日 1968年10月15日
裁判所名 福岡地
裁判形式 決定
事件番号 昭和43年 (行ク) 5 
裁判結果 一部認容,一部却下
出典 行裁例集19巻10号1663頁/タイムズ229号211頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇予告手当-解雇予告手当の支払方法〕
 2 労働基準法二〇条は稼得した賃金で生活をする労働者が突加解雇され次の雇用の場を得るまでの間直ちに生活の困窮を来たすことのないよう少なくとも三〇日前に解雇の予告をし、または即時解雇をする場合は少なくとも三〇日分の平均賃金を支払わしめて次の職場を得るための一定の準備期間中生活のある程度の保障を与えようとするものであるから右予告手当を支払わずにする即時解雇は原則としてその効力を生ずるに由ないものと解されるけれども、本件の場合、前認定のとおり予告手当を含む退職手当の支給が条例であらかじめ明確にされ、かつ本件免職処分後一三日目に現実の提供がなされたこと、ならびに右提供の日は右処分直後に到来する賃金支払期日以前であつたこと(労働者に対する賃金の支払が本件の如く毎月一回または数回に一定の日に支払われる場合には、労働者は前回支払いを受けた賃金により次回の賃金支払期日までの生活をなすのが普通で、原則としてその間の生活には特に困窮することはない。)などの諸事情に徴すればたとえ予告手当を含む退職手当の提供が免職処分後一三日目になされたとしても特にその間被免職者たる申請人らに生活上の脅威を与えるとも認められないから予告手当を支払わずにした本件免職処分の瑕疵は右処分後一三日目の予告手当を含む退職手当の提供により治癒されたものと云うべきであり、また、前説示の労働基準法二〇条の趣旨に徴すれば、退職手当支給条例において退職手当中に労働基準法第二〇条の予告手当も包含される旨規定することはなんら同条に牴触せず地公法一三条にも違反しないものと云うべきである。(国家公務員等退職手当法第九条もこのことを明文をもつて規定している。)
〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 1 地方公務員を「勤務実績不良」を原因として分限免職するためにはその不良の程度が相当顕著であることを必要とすると解されるところ、申請人X1の勤務実績は前項第三、四、5、7に認定、説示したとおり、一般的傾向としては不良であつたと認めざるを得ないにしても、その不良性の程度を推認することができない以上分限免職の理由となる「勤務実績不良の事実」の存在を認めるに由なく、また主観的には責任観念をもち、誠実に業務を遂行しようとしている同申請人が、第一種工事に必要とされる知識、経験に欠けているからと云う事実だけで直ちに「その職に必要な適格性」を欠いているものとは云えないから、本件の場合同申請人の分限免職取消請求が本案につき理由がないと見えるとは到底云えない。
 2 前項第三、四、1に認定した事実によれば、本件分限免職処分により養女Aの勉学の継続、修了のみならず、同申請人夫婦の生活自体が直ちに脅かされることは明らかで、本件分限免職処分により生ずる回復困難な損害を避けるための緊急の必要はあると云え、しかも右処分の効力を停止することにより特に公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそれがあるとも認められない。
 3 前項第三、五、4、6に認定したところによれば申請人X2は高齢のためごみ収集作業に従事させることは全くできず、性格もへんこうである期間余禄集め等もなした上単純な肉体作業でしかも最も軽易な前認定のごみ捨場のかきならし作業もその動作がかんまんで十分な作業ができないものと観察されしかもその不十分の度合を具体的事実により示すことが殆んど不能である以上すでに諸手当をも含め月額七万円余の支給を受ける清掃作業員としては地公法二八条一項三号に定めるその際に必要な適格性(主として持続性のある体力と運動能力)を欠くに至つたものと評するほかはなく、同申請人の分限免職処分取消請求はその本案につき理由がないと見えると云うべきである。
 以上のとおりであるから申請人X1の本件分限免職処分取消請求事件(当庁昭和四三年(行ウ)第六号)の本案判決確定に至るまで右処分の効力の停止を求める申請は理由があるのでこれを認容し、申請人X2の同旨の申請はその余の主張、立証につき判断するまでもなく理由がないから却下する。