全 情 報

ID番号 04321
事件名 裁決取消請求事件
いわゆる事件名 群馬中央バス事件
争点
事案概要  即時解雇後になされた労基法二〇条一項ただし書、三項、一九条二項にもとづく解雇予告除外認定申請に対して労基署長がなした不認定処分については、使用者はこれを争う法律上の利益を有せず、したがって行政不服審査の対象とならないとされた事例。
参照法条 労働基準法19条1項
労働基準法19条3項
労働基準法20条2項
行政不服審査法4条
体系項目 解雇(民事) / 解雇予告と除外認定 / 除外認定と抗告訴訟・不服審査
裁判年月日 1968年12月24日
裁判所名 前橋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (行ウ) 43 
裁判結果 棄却
出典 行裁例集19巻12号1966頁/時報569号38頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇予告と除外認定-除外認定と抗告訴訟・不服審査〕
 行政不服審査法第四条は行政庁の処分に対する不服申立てについていわゆる一般概括主義を採用し、同条第一項但書に規定する以外の行政庁の処分について不服申立てをすることができる旨規定する。そして、右の不服申立ての対象となりうる行政庁の処分とは行政庁がその優越的立場において国民に対してする行為をすべて含む趣旨ではなく、そのうち国民の権利、義務、その他法律上の利益に直接影響を及ぼす行為に限定するものと解するのが相当である。けだし、我が行政不服審査制度が単に行政の適正な運営を確保することのみを目的とするものではなく、行政庁の違法、不当な行為から国民の法律上の権利利益を救済しようとするところにむしろその主たる目的があることは行政不服審査法制定の経緯ならびに同法第一条の規定上明らかであり、この点において行政事件訴訟法と何らの径庭もないところである。
 そこで、本件前橋労働基準監督署長のした解雇予告除外不認定処分が原告の権利、義務、その他法律上の利益に直接影響を及ぼすかどうかの点について具体的に検討するに、まず、労働基準法第二〇条第一項但書、第三項、第一九条第二項による解雇予告除外認定制度の目的は使用者が自己の恣意的判断によつて予告手続を経ずに即時解雇をすることを、罰則(同法第一一九条第一号)を定めてこれを抑制しようとする労務行政上の見地に基くものであり、従つて、右即時解雇をなすにあたつて経なければならない労働基準監督署長のなす除外認定の性質は、除外事由たる事実の存否を確認する処分であるということができる。しかしながら、事実確認処分であるからといつて、当然、行政訴訟ないし行政不服審査の対象にならないというものではなく、およそ準法律行為的行政行為の一種たる確認処分も、行政庁の判断の表示であり、その行為に対しどのような効果を付与するかということは個々の法律の定めるところであつて、その定め方如何により、何らかの法律効果を付与したり、或いは単なる確認的行為にとどまるにすぎないということになるのである。そこで、いま右除外認定について果たして何らかの法律効果が付与されているかどうかを考えるに、即時解雇の意思表示の効力または解雇予告手当の支払義務の有無は、もつぱら前記除外事由の客観的な存否によつて決せられるものであつて、右除外認定、不認定はこれら私法上の実体関係に対し何らの法律効果も及ぼすものではない。従つて「除外認定」があつたからといつて労働者がこれに対し行政不服審査ないし行政訴訟上の不服を申立てることのできないことは多言を俟たない。これに反し、使用者のなした事前の認定申請に対して不認定処分があつた場合には、使用者としては罰則適用の危険をおかさなければ即時解雇をすることができないという行政法上の拘束をうけることになるから、かかる場合にはそのような行政法上の効果を免れるため右不認定処分に対して不服申立てをなす法律上の利益があるので、そのような場合に限つて、右「不認定処分」は行政不服審査ないし行政訴訟の対象となると解すべきである。しかし本件においては原告が除外認定の申請をしたのは即時解雇の意思表示をした二十余日も後であることは当事者間に争いがないから、最早や原告としては、解雇権の行使を制肘され、認定の有無によつて即時解雇をするかどうかの態度を決するという場面は全く解消し、残るところは唯単に処罰をうけるかどうかの問題だけであつて、この問題は、訴追をうけた場合に刑事訴訟において、客観的に除外事由が存在したかどうかを中心として争うべきものであり、したがつて、原告としては「不認定処分」を争う法律上の利益はない。かくして、本件前橋労働基準監督署長のした除外不認定処分は、原告においてこれを争う法律上の利益がなく、したがつてこれを行政不服審査法による不服審査の対象とすることはできない。