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ID番号 04323
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日立製作所事件
争点
事案概要  系列会社への転属を承認したことにより元会社との間に成立した退職の合意が、転属先会社の就労拒否によりいかなる影響を受けるかが争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 転籍
裁判年月日 1967年2月16日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (ワ) 1629 
裁判結果 認容
出典 労働民例集18巻1号67頁/時報481号129頁
審級関係 控訴審/00324/東京高/昭43. 8. 9/昭和42年(ネ)322号
評釈論文 手塚和彰・ジュリスト404号139頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-転籍〕
 前顕証拠によると、昭和四〇年八月一一日原告がA会社への転属を承諾したことにより原告と被告会社との間に退職の手続がとられ、同日付をもつて退職の合意が成立したことは認められるところであるが、しかし前記認定事実のとおり、昭和四〇年八月五日原告に対しA会社へ転属の通知がなされて以来同月一一日これを承諾するに至るまで原告は一貫して横浜工場に対し転属を承諾せず保留にしてもらいたい旨の意思を表明し、また、A会社に対しても労働契約書の署名を断わり、転属を納得できない旨告げて転属保留の態度を明確にしてきたこと、他方横浜工場においては、原告をなんとかして早く納得させてA会社へ送りこみたいとの立場から種々説得を重ね、転属を承諾さえすればA会社の従業員としての身分を取得する旨を強調していたこと、原告は上司からの再三の説得に折れ転属を承諾するに至つたが、これにより当然A会社で雇傭されるものと期待していたことその他前記認定の転属承諾に至つた経過ないし事情等を考慮すると、本件に関する限り原告のなした転属承諾即ち右認定による退職の意思表示は、原告がA会社で雇傭されることを条件としてなされたものと解するのが相当である。この認定に反する証人B、同C、同Dの各証言は信用しない。
 そこで、右条件の成就があつたかどうかを検討する。原告がA会社への転属の承諾をした八月一一日原告はA会社では採用できないとして帰されたことは当事者間に争いがない事実である。しかして、原告がA会社へ赴いたのは、入社手続を求められた八月六日と横浜工場E課長と同道し業務内容、労働条件について説明を聞いた同月九日の二度であり、原告はA会社との間に労働契約書に署名しておらず、また、原告はA会社で勤務したことが全然なかつたことは前記認定のとおりである。たとえ、労働契約書の作成が被告主張のとおり単に形式的なものに過ぎないとしても、転属の承諾と同時に遡つて転属先へ籍が移るということも転属側受入側双方の会社間の単なる手続上ないし形式上の処理の必要からなされたに過ぎないと解されるのであつて、本件のように原告がA会社において八月六日以降事実上就労したかまたは雇傭契約の締結があつたと認められる何らかの形跡がない以上、単に手続上八月六日付で転属させる旨の被告会社とA会社間の申合せがあり、これにより同日付で形式上A会社に籍が移つたと扱われたところで、その間に原告の意思が介入する余地がないのであるから、A会社と原告との間に雇傭契約締結の合意が成立したと認めることは到底できないといわざるをえない。証人Cの証言によると、「原告は八月六日付でA会社に籍が移つているので形式的には就業規則六七条の事業上止むをえない場合の解雇という形で採用しなかつた」旨被告の主張にそう供述をしているが、同証言によるも、原告に対し解雇をした旨の明確な通告はなされておらず、解雇に必要な所定の手続がふまれていないことが認められるのであつて、同証言は信用できないし、右証言と趣旨を同じくする証人Dの証言も信用しない。
 従つて、A会社と原告との間に雇傭関係が成立しない以上、これが成立することを条件とする前記転属の承諾即ち被告会社退職の意思表示は条件の成就がないから、その効力を発生しないというべく、原告と被告会社との間には依然として雇傭契約は存続しているものといわざるをえない。